欧州海上安全レポート

No.26-25_1 記事
26-25-2. EUの大規模不法入域への危機対応

26-25-2. EUの大規模不法入域への危機対応

2026年9月、EUは、大規模な不法入域への危機対応と欧州国境沿岸警備機関(Frontex)の強化を相次いで打ち出しました。本レポートNo.26-15で紹介した通り、6月には移民・庇護協定(Pact on Migration and Asylum)の適用が始まり、英仏海峡ルートに関するEU行動計画が示されるなど、不法移民対策の体制整備が進められています。[2-1]

 

そのような状況の中、フォン・デア・ライエン欧州委員長は9月16日、新たな「欧州緊急対応枠組み(European Emergency Response Framework)」を提案する方針を表明しました。これは、大規模な人の移動が意図的に引き起こされ、政治的な圧力手段として利用されるような例外的な緊急時に、厳格な要件の下で、通常の手続を一時的に柔軟化するための枠組みです。[2-2]

 

続いて、欧州委員会は9月29日、「突発的かつ大規模な不法入域を予防・予測・対応するための5項目計画(5-point plan to prevent, anticipate and respond to sudden, mass illegal arrivals)」を公表しました。同計画は、①不法移民を防ぐためのパートナー国との連携強化、②EU外部国境の強化、③移民動向の把握・早期警戒の強化、④密航・人身取引ネットワークの解体、⑤実効的な送還・再受入れ(相手国による自国民の引き取り)の枠組みの強化を柱としています。Frontexについても、緊急時の人員・装備の迅速な展開や送還支援など、その役割を強化する方針が盛り込まれています。[2-3]

 

この計画の策定には、7月末にスペイン領セウタで発生した大規模な不法入域が背景にあります。7月30~31日には、スペイン当局の推計で約7万2,000人がモロッコからセウタに不法入域しました。これを受け、欧州委員会は9月9日、スペインに1億1,470万ユーロの緊急支援を決定しました。資金は国境監視・警備、移民のスクリーニング、受入れ、送還などに充てられます。あわせて、スペインの要請に応じ、Frontex、欧州刑事警察機構(Europol)、欧州連合庇護庁(EUAA)による現地での運用支援も拡充されました。[2-4] [2-5]

 

また、英仏海峡でも、6月に公表されたEU行動計画に基づき、Frontexの活動が強化されています。同計画には、Frontexによる海上・航空監視資機材の展開が盛り込まれていました。Frontexは9月4日、2021年からの航空監視に加え、初めて巡視船を英仏海峡に派遣したと発表しました。巡視船と監視用航空機を連携させ、小型ボートを発見・追跡し、その情報をフランス当局に提供することで、捜索救助活動を支援しています。[2-6] [2-7]

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所 研究員 川上慶大)

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