欧州海上安全レポート

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26-21-3. シンガポールMPAとOcean InfinityのMOU締結

26-21-3. シンガポールMPAとOcean InfinityのMOU締結

2026年8月17日、シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore:MPA)は、米英に拠点を置く海洋ロボティクス・テクノロジー企業Ocean Infinityとの間で、自律運航船(Maritime Autonomous Surface Ships:MASS)及び船舶の遠隔運航に関する協力覚書(MOU)を締結しました。本件は、MPAが毎年開催する海事安全啓発イベント「Singapore Safety@Sea Week 2026」(8月17〜21日開催)の開幕式で発表されたものです。

 

本MOUは、シンガポール港内水域において、船舶の自律運航及び陸上からの遠隔運航に関する実証実験を実施し、その評価・検証を行うことを目的とした協力枠組みであり、調査業務等の委託契約ではありません。具体的には、Ocean Infinityは同社が商業運航する遠隔運用船隊「Armada」で得た運用上の知見や実務的教訓をMPAと共有し、MPAは自らの専門知識に基づき実証実験の設計・実施を指導するとともに、そこから生じる安全・運用面の課題を評価します。これにより、双方は自律運航船及び陸上の遠隔運航センター(Remote Operations Centre:ROC)に関する理解を深め、能力構築、運用実験及び研究協力を進めることとしています。シンガポール運輸省は、MPAが既に国内港湾水域を内外のMASSの実証に利用する「sandbox」を設け、2026年4月には日本郵船の自動車運搬船「Elder Leader」による自律運航実証も行ったとしています。[3-1]

 

Ocean Infinityは、海洋調査等にロボティクス、AI、データ技術及び遠隔運用を導入している企業です。同社は従来、船上で実施してきた計画、監視、意思決定等の機能を陸上へ移し、船舶、ロボティクス及びデータを一体的に運用するモデルを進めています。2024年には、船級協会DNVからArmada船隊の「remotely supported vessel operations」に対するStatement of Complianceを取得しており、DNVは、同船隊を、大型船に必要な技術及び運用基準を満たした初の船隊であるとしています。Ocean Infinity自身も、2025年12月にArmada船隊の整備を完了し、遠隔・自動化技術を前提とした運航モデルへの移行を進めているとしています。[3-2][3-3]

 

今回の協力で特に注目されるのは、船舶そのものの自律化だけでなく、陸上のROCを含めた運航体制を対象としている点です。IMOが2026年5月に採択し、同年7月1日に発効した非強制MASS Codeは、遠隔・自律運航船について、航行、通信、遠隔運航、サイバーセキュリティ、リスク評価等を含む包括的な安全枠組みを設定しており、ROCについても安全管理システムの下で評価・認証・運用されることを求めています。また、非強制コードの適用を通じて得られた実務経験を今後の強制コード策定に活用するExperience Building Phase(EBP)が予定されています。この観点から、Ocean Infinityが実運用で得た知見をMPAと共有する今回の取組は、MASS Code採択後に各国が具体的な運用経験を蓄積していく動きの一例と位置付けられます。[3-4][3-5]

 

以上から、今回のOcean InfinityとのMOUは、既に遠隔運航の商業経験を有する企業の知見を取り込み、船舶とROCを含む自律・遠隔運航システムについて実践的な能力及び運用経験を蓄積する取組と評価できます。シンガポールは、IMO MASS Codeという国際的な枠組みの成立と並行して、港湾水域を実証環境として活用し、自律・遠隔運航船の受入れに向けた実証と経験の積み重ねを進める段階に入っています。今回の協力は、単独の技術実証というより、将来的にシンガポール港で自律・遠隔運航船を受け入れるための「regulatory ready」な環境形成の一部として位置付けるのが適当です。[3-6]

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所 立石良介)

 

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