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26-21-1. EMSA「無人航空機悪用リスクの評価」文書

26-21-1. EMSA「無人航空機悪用リスクの評価」文書

8月7日、欧州海事安全庁(EMSA)は、無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems:UAS)が悪用された場合に海事セキュリティが受けるリスクを評価するための文書「Quantifying the risk to maritime security from malicious use of UAS」を公表しました。本文書は、船舶及び港湾施設の保安に関わる行政機関、港湾管理者、船社・船舶運航事業者等、官民双方の海事セキュリティ関係者を対象として、UASを利用した攻撃、犯罪、妨害活動等のリスクを共通の枠組みで評価するための手法を示したものです。EMSAは、本文書を官民双方が共通で利用できる汎用のリスク評価ツールと位置付けています。対象となるのは、EU規則(EC)No 725/2004の適用対象となる港湾施設及び船舶です。([1-1]

 

背景には、民生用ドローンの低価格化、小型化、高性能化に加え、近年の紛争を通じてUASの軍事利用や悪用が急速に現実化していることがあります。ウクライナ戦争では、比較的安価な商用ドローンが偵察や攻撃に幅広く利用され、また紅海ではフーシ派による商船へのドローン攻撃が継続しています。こうした事例は、市販の安価なドローンでも偵察や攻撃の手段として実際に通用することを示しており、同様の手法が犯罪組織やテロ組織を含むより幅広い主体に模倣・利用されかねないとの懸念を高めています。今回の文書は、ロシア・ウクライナ間のような国家間戦争における港湾攻撃への直接的な対応策を示すものではありませんが、ウクライナ戦争や紅海情勢で顕在化したUASの兵器化・悪用という教訓を、EU域内の平時の船舶・港湾保安へ反映する動きとして位置付けることができます。

 

本文書が想定する脅威は、爆発物等を搭載したUASによる直接攻撃に限られません。港湾施設や船舶に対する偵察・情報収集、密輸、法執行機関の活動監視、通信・航法設備への妨害、サイバー攻撃の支援、港湾業務の混乱等も対象となります。特に、UASはフェンス、ゲート、警備員等による従来の地上からのアクセス管理を上空から迂回できるため、燃料タンク、荷役設備、通信設備、電力設備、船橋等の重要施設に対する新たな侵入経路を形成します。このため、これまで主として陸上又は海上からの不審者・不審船の侵入を前提としてきた港湾・船舶保安に、「上空からのアクセス」という新たな脅威を組み込む必要が生じています。

 

本文書では、こうしたUAS脅威について、新たな独立した規制制度を設けるのではなく、既存の船舶・港湾保安のリスク評価に組み込む考え方を採っています。すなわち、重要な設備や機能を特定し、想定される攻撃主体と攻撃シナリオを設定した上で、発生可能性と影響の大きさを分析し、必要なリスク低減措置を検討するものです。 ([1-2]

 

一方、実際の対策については、港湾管理者や船社のみで完結することを想定していません。レーダー、光学・赤外線カメラ、無線周波数検知装置等によるUASの探知、重要施設の物理的防護、警備手順の変更等は港湾・船舶側でも実施可能ですが、ジャミング、強制着陸、迎撃等の積極的なCounter UAS措置には法的・安全上の制約があります。このため、行政機関、警察、沿岸警備機関等との役割分担や情報共有をあらかじめ整理しておくことが重要となります。

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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