欧州海上安全レポート

26-18_1 記事
26-18-3. EUのAI及び脱炭素政策の協議

26-18-3. EUのAI及び脱炭素政策の協議

7月10日及び17日、EU理事会海運作業部会(Shipping Working Party)は、IMOで今後審議される海事政策案件について加盟国間の調整を行いました。協議されたのは、①船舶機器へのAI導入、②IMOにおける温室効果ガス(GHG)削減措置、③船上CO₂回収(On-board Carbon Capture:OCC)に関する案件です。[3-1] [3-2] [3-3]

 

海運作業部会における協議は、IMOへ提出するEUとして支持する加盟国共同提出文書(Union submission)の内容を加盟国間で事前に調整し、EUとして統一した立場でIMO交渉に臨むための政策調整です。EU加盟国はそれぞれIMOの正加盟国として発言権及び投票権を有します。他方、EU自体はIMOの加盟主体ではなく、欧州委員会がオブザーバーとして参加するにとどまるため、EUの立場は、理事会の海運作業部会で共通方針を調整した上で、議長国、欧州委員会及び加盟国が連携して文書提出を進める形で示されます。もっとも、その結束が常に保たれるわけではなく、昨年10月のMEPC特別会合(Extraordinary Session)では、ギリシャ及びキプロスが他の加盟国と異なる対応をとった例もあります。今回もMSC第112回会合、CCC第12回会合及びGHG中間会合等を見据え、加盟国間の意見集約が行われました。[3-1] [3-2]

 

AIに関する議題では、船舶機器へ組み込まれるAIの性能基準及び試験方法について、MSC第112回会合に提出するEUとして支持する加盟国共同提出文書(Union submission)案の議長国妥協案が検討されました。同文書案は、航海機器及び通信機器に搭載されるAIの性能基準に係る勧告を作成することを、新たな作業項目(New Output)としてIMOに提案する内容です。近年、AIは航海支援、通信、機関監視、異常検知及び予知保全などへの利用が急速に拡大していますが、現行IMO基準にはAI固有の性能評価や信頼性評価に関する基準が存在しません。このためEUは、AI技術そのものを規制するのではなく、AIを搭載した船舶機器の性能要件及び試験方法について、安全性、透明性、信頼性及び試験・認証方法を国際基準として整備する方向性を追求しています。[3-2]

 

GHG削減措置については、IMOにおける作業の現状が欧州委員会から報告されました。EUは、2023年IMO GHG戦略及びIMOで検討が進められている中期措置(燃料GHG基準(GFS)及び経済的措置)を踏まえ、燃料のGHG強度規制と経済的措置を組み合わせた国際制度を一貫して支持してきています。理事会決定(EU)2026/1067においても、MEPC第84回会合に臨むEUの立場として、国際的な公平性(Level Playing Field)を確保しながら2050年頃までのネットゼロ実現を目指す方針が確認されています。[3-4] [3-1] [3-2]

 

船上CO₂回収(OCC。IMOではOCCS(onboard carbon capture and storage)と呼称)については、欧州委員会が実施した技術的評価の結果を紹介するインフォメーション・ペーパー案が取り上げられました。同ペーパーは、IMO貨物運送小委員会第12回会合(CCC 12)に提出される予定です。[3-1]

 

今回の協議は、いずれもIMOへの対応方針を事前に調整する段階のものであり、新たな制度を決定したものではありません。AIに関するEUとして支持する加盟国共同提出文書(Union submission)案は議長国妥協案の検討という段階にあり、加盟国間になお調整を要する点が残っていたことがうかがえます。GHG削減措置は欧州委員会からの進捗報告、OCCは技術的評価結果の共有であり、いずれも現時点でEUとしての新たな立場を決定する議題ではありません。EUがMSC第112回会合等に向けて内部調整を積み重ねている局面といえます。[3-1] [3-2] [3-3]

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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