欧州海上安全レポート

26-18_1 記事
26-18-2. EUの海洋観測体制の構築

26-18-2. EUの海洋観測体制の構築

7月15日、欧州委員会海事・漁業総局(DG MARE)は、「EUにおける海洋観測の調整及び相乗効果の強化(Enhancing Coordination and Synergies in the Field of Ocean Observation:ECOO)」調査の第1段階を完了し、欧州の海洋観測体制を整理した概要資料を公表しました。ECOO調査は、加盟国、地域機関、EU機関及び国際機関が個別に実施している海洋観測について、活動の重複や調整上の課題を把握し、欧州全体として効率的な観測体制を構築することを目的としています。[2-1]

 

公表されたのは、①海洋観測の目的、②権限・ガバナンス及び調整体制、③観測の実施方法、④既存の調整イニシアチブの4件の資料です。①では、科学研究、政策形成及び実務的な観測活動の関係を整理し、②では、各国、地域、EU及び国際の各レベルにおける責任、権限及び調整の枠組みを分析しています。③では、調査船、観測ブイ、潮位計、HFレーダー、海底観測装置及び衛星等の観測基盤や運用体制を、④では、既存の調整メカニズム及び連携強化の可能性を整理しています。[2-1]

 

欧州では、各国の水路機関、気象機関、海洋研究機関、大学、EU機関等が、それぞれの目的で海洋観測を実施しています。ECOO調査は、これらの観測を一元化するものではなく、EMODnet(European Marine Observation and Data Network)等の海洋データ基盤を活用し、各機関が保有する観測データを標準化・共有して、欧州全体で効率的に活用できる体制を構築することを目指しています。海況の解析・予測については、EUの地球観測プログラム「コペルニクス」の海洋部門であるCopernicus Marine Service(欧州委員会が資金を拠出し、フランスのMercator Ocean Internationalが運営)が担っており、観測データを集約するEMODnetと相互に補完しながら欧州の海洋情報基盤を形成しています。[2-2] [2-3]

 

EMODnetには、各国が収集した海底地形、水温、海流、潮位、海洋生物、海洋化学、地質、人間活動等のデータが提供され、利用者は一つの窓口から横断的に検索・利用できます。これは、日本の海上保安庁が運用する「海しる」が複数機関の海洋情報を地図上で提供する仕組みに近い考え方ですが、EMODnetは複数国にまたがる利用を前提に、データの標準化やAPI提供まで含めた欧州共通の海洋データ基盤として整備されている点が特徴です。[2-2]

 

統合・共有された海洋観測情報は、Copernicus Marine Serviceによる海況予測、各国の気象・海象予測、航行安全情報、捜索救難(SAR)における漂流予測、海洋汚染事故対応、気候変動対策、海洋空間計画(MSP)、漁業資源管理、洋上再生可能エネルギー施設の設計・維持管理などに利用されるほか、欧州が推進するDigital Twin Ocean(海洋デジタルツイン)の基盤データとしても活用されることが想定されています。[2-4] [2-5]

 

本件は直接的な救難・取締施策ではないものの、欧州全体の海洋状況把握(Maritime Domain Awareness:MDA)を支える情報基盤を高度化し、海上安全及びブルーエコノミー(海洋経済)を支える取組として位置付けられます。ECOO調査においても、海上安全(Maritime Safety)は海洋観測の主要な利用目的の一つとして整理されています。[2-1]

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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