欧州海上安全レポート
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2026年4月19日から22日まで、米国メリーランド州ナショナルハーバーのGaylord National Resort & Convention Centerで開催された「Sea-Air-Space 2026」に参加し最新テクノロジーの動向について調査してきました。
本展示会を通じて最も強く感じたのは、新技術導入の焦点が、単に「高性能な装備を導入する」ことから、「複数の技術・システムを統合し、任務能力として実装する」ことへ移行しているという点です。無人機、USV、AI、センサー、通信、C2等を個別に評価するだけではなく、それらを連接し、現場で使える情報と能力に変えるための統合設計、官民連携、調達改革、導入支援機能の重要性が示されていました。
《記事ポイント》
1 個別技術は、すでに単体でも複雑
- 無人機やUSVの、単なる機体ではなく統合システムとしての性格
- センサー、AI、通信、航法、保守、サイバー、訓練を含めた総合的評価の必要性
- 個別装備の性能比較にとどまらない、周辺システム・運用体制を含む導入判断の必要性
2 単体システムだけでは任務を完結できない
- 海上監視やMDAにおける、UAS、USV、UAV、衛星、レーダー、AI、通信網の連接の必要性
- 個々のシステムをつなぎ、意思決定者が使える情報へ変換する仕組みの重要性
- 単体装備の導入ではなく、複数システムを統合した運用の必要性
3 「システムのシステム」の発想が不可欠
- 複数のシステムを束ね、全体として一つの任務能力を生み出す視点の必要性
- MDA、捜索救助、違法操業対策、麻薬密輸対策、重要インフラ防護への適用可能性
- 単発的・部分最適な新技術導入に対する警鐘
4 官民連携と調達改革が必要
- 民間企業やスタートアップを中心とする技術革新の進展
- 政府による任務課題の明確化、実証を通じた要求の具体化
- 仕様確定型調達から、課題提示型・実証重視型調達への転換の必要性
5 技術を任務能力に変える支援企業が重要
- 複雑な技術を実際の任務に組み込むための、装備メーカー以外の支援機能の必要性
- 統合設計、データ標準化、リスク分析、導入管理、組織定着を支援する企業の重要性
- コンサル、システムインテグレーター、プログラムマネジメント企業の役割拡大
《本文》
1 はじめに(最新の軍事テクノロジー動向から学ぶ)
米国で開催された「Sea-Air-Space 2026」に参加しましたので、その報告をさせていただきます。
同イベントは米海軍、海兵隊、沿岸警備隊、政府機関、防衛産業、スタートアップ、研究機関が同じ場に集まり、海洋分野の作戦上の課題と技術的な解決策を結び付けて議論する展示会です。Sea-Air-Spaceは、最新のテクノロジー進展を把握する観点からは、単なる製品展示会ではなく、技術、運用、調達、政策、産業基盤を一体として観察できる点に参加の意義があります。
特に海上安全・保安分野では、無人航空機、無人水上艇、無人水中艇、AI、データ統合、衛星監視、PNT抗堪性※、サイバー、指揮統制、遠隔監視、海事インテリジェンスといった技術が、防衛用途に限らず、MDA、捜索救助、国境管理、違法操業対策、麻薬密輸対策、重要インフラ防護にも応用できます。したがって、軍事系展示会への参加は、防衛装備そのものの調査にとどまらず、将来の海事産業に応用され得る技術の方向性を早期に把握する機会となると考えます。
※ PNT抗堪性とは、位置(Position)・航法(Navigation)・時刻(Timing)情報を、妨害や偽装を受けても確保し続ける能力をいう。GPS妨害下でも作戦を継続できるかどうかが論点となる。MDA(Maritime Domain Awareness)は、海洋に関わるあらゆる事象を把握する取組みを指す。
各パネルの議論からは、技術導入の焦点が「いかに優れた単体装備を導入するか」から、「複数の装備、データ、指揮統制、調達制度、運用者教育をいかに一体化するか」へ移っていることが確認できました。無人システム、AI、データ基盤に関する複数のパネルでは、技術そのものよりも、現場で使える形に統合し、短いサイクルで改良し、既存組織の中に定着させることが一貫して論点となっていました。
この点で、Sea-Air-Space 2026は、海上保安機関が将来技術を検討する際に、装備品の性能比較だけでなく、運用の考え方、訓練、人材、調達、産業基盤、データの設計まで含めて総合的に把握する必要があることを示す場でした。
2 Sea-Air-Space 2026
(1) イベント概要
Sea-Air-Space 2026は、2026年4月19日から22日まで、米国メリーランド州ナショナルハーバーのGaylord National Resort & Convention Centerで開催されました。
Sea-Air-Spaceは、Navy League of the United Statesが主催する米国最大級の海事・防衛技術展示会で、1965年に創設されました。米国の防衛産業基盤、民間企業、海軍、海兵隊、沿岸警備隊の意思決定者を結び付け、ワシントンD.C.周辺で教育的・専門的な海事イベントを開催することを目的に発展してきました。現在では、米国の海洋戦力、海上安全保障、海事産業、先端技術に関する官民対話の場として位置付けられています。
(2) 出展企業
公式には「数百社規模の出展者」が参加する大型展示会と説明されており、参加企業・団体の範囲は極めて広いものでした。今回確認できた出展・配布資料からも、航空宇宙、防衛、造船、無人機、自律システム、海事AI、衛星監視、慣性航法、通信、サイバー、電子戦、データ基盤、ERP※、訓練、シミュレーション、調達支援、コンサルティング等、多様な領域が含まれていました。
※ ERP(Enterprise Resource Planning)とは、財務、人事、補給、調達といった組織内の主要な業務情報を一元的に管理する基幹システムを指す。
具体例として、無人航空機分野ではAirbus HelicoptersのFLEXROTOR、Shield AIのV-BAT及びX-BAT、AEVEX AerospaceのGPS-denied航法技術(GPS妨害環境下でも自立飛行を可能にする航法技術)が紹介されていました。無人水上・水中システム分野ではNavierの自律型USV、Ocean AeroのTRITON AUSV、ThayerMahanのUUV防御・海底監視システムが確認されました。海事インテリジェンス分野ではWindward及びVantorによるAI・衛星統合プラットフォームが、不審船、AIS停止、位置偽装、制裁回避、IUU漁業等の検知に用いられるものとして紹介されていました。
※ USV(Unmanned Surface Vehicle)は無人水上艇、UUV(Unmanned Underwater Vehicle)は無人水中艇、AUSV(Autonomous Unmanned Surface Vehicle)は自律型無人水上艇を指す。AISは船舶自動識別装置で、本来は船位を自動発信する仕組みだが、これを意図的に停止して航跡を隠す行為が密輸や制裁回避で問題になる。IUU漁業は違法・無報告・無規制漁業の略。
また、Modern Data Company、ManTech、IFS、Systems Planning & Analysisのように、個別装備ではなく、データ、AI、ERP、プログラム管理、システム設計、意思決定支援を提供する企業の存在感も大きいものでした。これは、現代の海事技術が単体装備ではなく、複数の技術を束ねて任務効果を生む「システム統合型」の市場へ移っていることを示しています。
3 パネルディスカッションから得られた主要な論点
(1) 単体システムの複雑化
第一の論点は、展示されている個別技術が、すでに単体でも極めて複雑なシステムになっている点です。無人航空機、無人水上艇、無人水中艇は、単なる機体ではなく、センサー、通信、航法、AI、電源、ペイロード、データ処理、遠隔操作、保守、サイバー防護を含む統合システムとなっています。こうした複雑な単体システムを現場で使える任務能力に変えるには、装備だけでなく組織の仕組みそのものが対応する必要があります。
- パネルディスカッション「Start with the Fleet: Readiness, Capability, Speed(艦隊起点の即応性・能力・スピード)」では、艦隊のニーズを起点に即応性と能力向上を進める観点から、無人水上艇や自律型海上システムを、実験段階の特別な装備ではなく、通常の艦隊運用の中に組み込むことが中心の論点となっていました。USVは有人艦を置き換えるものではなく、艦隊司令官により多くの選択肢を与える補完的な戦力として位置付けられていました。また、無人化は「人が不要になる」ことを意味せず、任務の設計、監督、整備、リスク判断、指揮統制の各段階で、むしろ高度な人材が必要になるとの整理が示されていました(登壇者: 海軍中将 John E. Dougherty IV、海軍少将 Todd Evans、Ann Wood氏)。
- パネルディスカッション「Retooling the Defense Industrial Base – AI and Robotics for Sustainment and Manufacturing(防衛産業基盤の再構築 – 維持整備と製造のためのAIとロボティクス)」では、AI、データ基盤、財務・補給システム、ERP、監査対応が一体の問題として扱われていました。特に、海軍・海上部門のシステム環境はばらばらに分かれており、AIや自動化を本当に機能させるには、API※、ERP、データ標準、監査可能性、統制環境を含む基盤の作り直しが必要だとの議論がありました。この点は、AI導入が単にアプリを入れる話ではなく、組織の情報基盤全体を変える取組みであることを示しています(登壇者: 海軍少将(退役) Chip Rock、海軍少将 Andrew Biehn、海軍少将 Dianna Wolfson、Eric Chewning氏、Troy Demmer氏)。
- APIとは、異なるソフトウェア同士がデータをやり取りするための共通の窓口のこと。これが整っていないと、新しいAIを入れても既存システムからデータを取り出せず、性能を発揮できない。
- パネルディスカッション「From Concept to Capability: Aligning Autonomy Across our Maritime Forces」では、米沿岸警備隊がRAS(Robotic and Autonomous Systems)※ を組織的・制度的に扱う段階へ移っていることが説明されていました。RAS担当のPEO(Program Executive Office)の設立は、単なる新技術担当部署の新設ではなく、要件、取得、配備、維持、訓練、人材育成を一体化する組織改革として位置付けられていました(登壇者: Bryan Clark氏(Hudson Institute)、Anthony Antognoli氏(米沿岸警備隊)、Dustin Byrum氏(米海兵隊)、Duane Fotheringham氏(HII – Mission Technologies)、Rebecca Gassler氏(米海軍)、Rachel Riley博士(米海軍))。
※ RASは無人機・自律システム全般を指す。PEOは、特定の装備分野について調達から運用支援までを一括して所掌する米軍の組織。
(2) 早期システム開発と実践の中での改良
第二の論点は、早期にシステムを開発し、実際の運用環境に投入しながら改良するという考え方です。従来のように長い時間をかけて要求仕様を細かく固めるのではなく、一定のスケジュールを固定し、その期間内で実現可能な能力を見極めるという発想への転換が、複数のパネルで確認されました。
- パネルディスカッション「Retooling the Defense Industrial Base(防衛産業基盤の再構築)」では、以前は「コストと能力を固定し、スケジュールを評価する」発想だったのに対し、現在は「スケジュールを固定し、その期間内でどの能力を実現できるかを見る」方向に変わっているとの説明がありました。これは、急速に変化する技術環境では、完璧な要求仕様を待つよりも、早期に実装し、効果を測定し、不要なものを廃止しつつ拡張することが重視されていることを示しています。
- パネルディスカッション「From Concept to Capability: Aligning Autonomy Across our Maritime Forces(構想から能力へ)」では、技術的な問題以上に、組織や政策が変化を十分な速度で取り込めるかが制約になるとの趣旨の発言がありました。実験、演習、実任務から得られるセンサーデータや現場の声をもとに、ソフトウェア更新、構成変更、脆弱性対応を短い周期で行う必要がある一方、実際には承認権限、交戦規則、運用手順、調達プロセスがボトルネックになり得ると整理されていました。
- パネルディスカッション「Accelerating Air Power: Bridging Industry and Naval/Marine Corps Aviation for Fleet Readiness(航空戦力の加速化 – 海軍・海兵隊航空と産業界の連携による艦隊即応性強化)」でも、RASや新規装備を配備した部隊では、その有効性が確認されるにつれて追加需要が生まれているとの説明がありました。これは、政策文書上の構想だけでなく、実際に現場で運用し、効果が見えた技術が、現場からさらに求められる形で広がっていることを示しています。海上保安機関にとっても、将来技術は机上の検討だけで評価するのではなく、限定的な試験導入、現場検証、改善のサイクルを通じて能力化していく必要があると考えられます(登壇者: 海軍少将(退役) Greg Harris、海軍少将 Joseph B. Hornbuckle、海兵隊中将 Gregory Masiello、海兵隊中将 William Swan、Dan Gillian氏)。
(3) 物品調達の複雑化を解決するための相互努力
第三の論点は、技術の高度化に伴う物品調達の複雑化です。無人システムやAIシステムの調達では、どの機体・どのソフトを買うかという単純な選択ではなく、任務課題、データ接続、保守、訓練、権限、サプライチェーン、将来の更新の可能性まで含めて判断する必要があります。
- パネルディスカッション「Program Leadership Perspective: Delivering Warfighting Capability to the Fleet(プログラム責任者の視点 – 艦隊への戦闘能力提供)」では、どの無人艦艇を購入すべきかは、技術そのものの新しさではなく、実際の戦闘上・任務上の課題を解決できるか、十分な数を揃えられるか、価格、航続距離、速度、搭載能力のバランスが任務に合うかによって判断すべきだとの議論がありました。また、艦体とペイロードを分けて考え、コンテナ化されたペイロードを柔軟に積み替える発想も重要な論点でした(登壇者: 准将 David C. Walsh、海軍少将 Joseph B. Hornbuckle、海軍少将 Anthony E. Rossi)。
※ ペイロードとは、機体や艦体に搭載する任務装備のこと。同じ艦体に、監視用センサー、機雷掃討装置、対艦ミサイル等、異なるペイロードを載せ替えることで、艦体を多用途に使う考え方が広がっている。
- パネルディスカッション「From Concept to Capability(構想から能力へ)」では、政府側が通常のRFPや詳細要求仕様だけで産業界に需要を伝える時代ではなくなっているとの問題意識が示されていました。RAS担当のPEOは、需要シグナル・フォーラム(政府の必要性を産業界に発信する場)、マーケットプレイス(技術提案を集約するオンライン窓口)、産業界エンゲージメント・デー(産業界との対話日)等を通じて、政府の課題と産業界の技術提案を、より短い周期で結び付けようとしていました。
※ RFP(Request for Proposal)は提案依頼書のこと。政府が「こういう装備を、こういう仕様で調達したい」と企業に提示し、提案を募る方式を指す。技術の変化が速い分野では、この方式だけでは追いつかないというのが議論の出発点である。
- パネルディスカッション「NAVAIR Acquisition On-Ramp: Small Business and Tech Transition Pathways(NAVAIR調達オンランプ – 小規模企業と技術移行の経路)」では、小規模企業が革新的な技術を提案し、それをフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3へと進める制度の枠組みが説明されていました。特に、フェーズ3ではSBIR※ 資金は使われない一方で、随意契約が可能になり、契約上限額の制限がなく、履行期間も長くなり得る点が紹介されていました。これは、スタートアップや小規模企業の技術を、研究開発段階から実任務・本格調達へ橋渡しする手段として重要です(登壇者: Irma Alvarez-Alexander氏、Kristi DePriest氏、Richard Tarr氏)。
※ SBIR(Small Business Innovation Research)及びSTTR(Small Business Technology Transfer)は、米国の中小企業向け研究開発支援制度で、フェーズ1で実現性検証、フェーズ2で試作、フェーズ3で実用化・調達につなげる段階的な仕組みである。NAVAIRは米海軍航空システム軍団を指す。
- パネルディスカッション「Doing Biz with ONR and NRL(ONR・NRLとの取引)」では、米海軍研究局(ONR)及び米海軍研究所(NRL)との契約、ライセンス、SBIR/STTR、技術移転、研究開発連携の具体的な手続きが説明され、研究開発と実任務の橋渡しを支える別ルートとして位置付けられていました。関連するパネルディスカッション「Naval Research: From Discovery to Deployment(海軍研究 – 発見から実装まで)」でも、NRLによる科学技術研究を、発見段階から実装段階へとつなげる取組みが紹介されていました(主な登壇者: Arveice Washington氏、Brian Shipley氏、Andrew Chappell氏、Jamie Thompson氏、Kerry Leonard氏、大佐 Randy C. Cruz)。
(4) 相互運用性とデジタル・アーキテクチャ
第四の論点は、パネル全体を貫く相互運用性の問題でした。
- パネルディスカッション「Submerged Strategy: U.S. Sea-Based Deterrence and Allied Innovation(海中戦略 – 米国の海上抑止と同盟国の技術革新)」では、海上における統合運用性は、単に装備が接続できるという技術的な問題ではなく、訓練、維持整備、補給、法的権限、データ共有、同盟国との接続を含む総合的な課題だと整理されていました。特に、米沿岸警備隊は軍の一部でありながら法執行権限も持つため、海軍・海兵隊と連携しつつ、拿捕、差押え、法執行措置まで含めた柔軟な運用が可能である点が強調されていました(登壇者: 海軍中将(退役) Jeffrey Trussler、英海軍中将 Paul Beattie、海軍中将 Rob Gaucher、海軍中将 Richard Seif、海軍大将(退役) Charles Richard、Kelly Lee氏、Scott Pappano氏)。
- パネルディスカッション「From Concept to Capability(構想から能力へ)」では、米沿岸警備隊の登壇者が、デジタル・アーキテクチャ※ こそが真に能力を実現させる基盤だとの趣旨を述べていました。単に装備を迅速に取得・配備するだけでは不十分で、データをいかに速く集め、処理し、ソフトを更新し、構成を変え、現場から学んで反復できるかが鍵となるとされていました。
さらに、沿岸警備隊のCoastal Sentinel構想は、有人・無人センサーがデータを共有し、判断を支援し、必要に応じて別の無人システムや運用者へ判断を引き継ぐ「コンステレーション」として説明されていました。
※ デジタル・アーキテクチャとは、データの流れ、処理の仕組み、システム同士のつながり方を全体として設計したもの。コンステレーションは元来「星座」の意で、ここでは複数の有人・無人センサーが連携して一つの監視網を成す状態を指す。
この議論は、海上保安・安全分野にも直接関係します。MDA、SAR、違法操業監視、麻薬密輸対策、重要インフラ防護では、単一のセンサーや単一の無人機で完結する任務は少ないと考えられます。衛星、AIS、レーダー、UAS、USV、UUV、沿岸監視、航空機、船艇、AI分析、C2※ を横断的に接続し、意思決定者が使える情報に変える仕組みが欠かせません。
※ C2(Command and Control)は指揮統制を指す。
4 閉会式の概要
閉会式の挨拶で、印象的な発言がありました。
米国行政管理予算局(OMB)長官が造船分野に対する「政府全体」かつ「国家全体」のアプローチを説明し、米国が海洋国家としての能力を維持・強化するうえで、造船業及び海事産業基盤への注力が極めて大きいことを強調しました。
同発言では、米政権が各省庁・行政機関の造船上の必要性と課題を精査し、米国の造船産業基盤を立て直すための計画を見いだそうとしていることが述べられていました。また、東海岸・西海岸の伝統的な造船拠点だけでなく、メキシコ湾岸、五大湖沿岸、ミシシッピ川流域、オハイオ川流域の造船・修繕能力まで評価対象に含める「国家全体」の考え方が示されていました。
特に印象的だったのは、造船問題を単に予算不足の問題としてではなく、産業基盤、競争、労働力、サプライヤー基盤、企業文化、契約履行のあり方、納期遅延、受注残の問題として捉えていた点です。建造遅延が艦隊運用に負担をかけ、既存艦艇の稼働増加と劣化を招くこと、また受注残には追加費用が伴うことが強調されていました。
砕氷船については、フィンランドとの協力を通じた「フィンランド・モデル」(フィンランドの造船能力を活用しつつ、米国内造船所での建造も並行する協力枠組み)が紹介され、米沿岸警備隊が北極安全保障計画のために砕氷船を取得する構想が述べられていました。最初の4隻をフィンランドで建造し、残る7隻を米国内造船所で建造するという説明(発言のママ)は、単なる艦艇取得ではなく、同盟国の能力を活用しつつ米国内の重工業・造船基盤を再構築する政策的な意味を持つものです。
この閉会挨拶は、Sea-Air-Space 2026の全体像を象徴すると感じました。すなわち、米国は海上安全保障の将来を、艦艇、無人システム、AI、サイバーだけでなく、それらを生み出し、維持し、拡張する造船・産業基盤の問題として捉えています。技術革新と産業政策、同盟国との協力、国内雇用、北極安全保障が一つの政策パッケージとして語られていた点が印象的でした。
5 Sea-Air-Space 2026から得られた示唆
(1) 個別技術の複雑性
展示会全体を通じ、個別技術の完成度が高い一方、それぞれが単体で完結する製品ではなく、複雑なサブシステムの集まりだとの印象を受けました。第3章(1)で見たように、無人機やUSVであっても、機体性能だけでなく、センサー、AI、通信、電源、航法、ペイロード、保守、サイバー、訓練を含めて初めて任務能力になります。
(2) 複数システムの統合
より重要なのは、単体システム同士をどう統合するかという点です。海上監視を例に取ると、UAS、USV、UUV、衛星、AIS、レーダー、光学センサー、AI分析、C2、通信網を連接し、意思決定者へ意味のある情報として届ける必要があります。第3章(4)で取り上げた「From Concept to Capability(構想から能力へ)」における「デジタル・アーキテクチャが真の実現基盤である」とする議論は、この点を端的に示していました。
(3) 「システムのシステム」の必要性
今後の海事テクノロジー導入では、「優れた装備を導入する」だけでは不十分で、複数のシステムを束ねる「システムのシステム※ 」を構築する視点が必要です。これは、海軍作戦だけでなく、沿岸警備、MDA、捜索救助、違法操業対策、麻薬密輸対策、重要インフラ防護にも当てはまります。米沿岸警備隊がCoastal Sentinelを、有人・無人センサーのコンステレーションとして捉えていたことは、海上保安分野にとっても重要な示唆です。
※ 「システムのシステム」(System of Systems)とは、複数のシステムを束ねて、それ自体を一つの大きなシステムとして機能させる考え方をいう。個々の装備が単独で動くのではなく、全体として一つの任務能力を生むことを目指す。
特に、近年はドローン、AI、衛星通信、センサー、データ解析ツールなど、個別の新技術が次々と登場するため、組織としては目に見えやすい単体技術の導入に関心が向きがちです。しかし、個々の技術が既存の指揮統制、情報共有、現場運用、法執行プロセスとつながらなければ、導入の効果は限定的になります。本イベントで繰り返し示された「システムのシステム」という考え方は、単発的・部分最適な技術導入に対して警鐘を鳴らし、任務全体の中で技術を統合的に設計する必要性を示すものといえます。
(4) 官民連携と調達制度改革の必要性
調達面では、装備の高度化により、従来型の仕様確定型調達では対応しにくい領域が増えています。政府側には、何を実現したいのかという任務課題を明確にしつつ、細かすぎる仕様で技術の可能性を狭めない工夫が求められます。企業側には、既存システムとの接続可能性、標準化、拡張性、保守性、費用対効果を含めた提案が求められます。
第3章(3)で取り上げた、RAS担当のPEOによる需要シグナル・フォーラムやマーケットプレイス、SBIR/STTRのフェーズ移行制度、ONR・NRLとの技術移転ルートは、政府と産業界の相互努力を制度的に支える仕組みとして理解できます。技術の進展速度が速い分野では、政府が完全な仕様を事前に決めるのではなく、課題を提示し、実証を通じて要求を磨き、成功した技術を迅速に本格導入する仕組みが鍵となります。
(5) コンサルタント、マネジメント会社の必要性
展示会では、Systems Planning & Analysis、ManTech、IFS等のように、個別装備ではなく、データ駆動型分析、AI導入支援、プログラム管理、ERP、システム設計を提供する企業の存在感も大きいものでした。これは、複雑な技術を任務能力に変えるには、技術企業だけでなく、政府側と産業側の間に立って、要件整理、統合設計、リスク分析、導入管理、変革支援※ を行うコンサルタントやマネジメント会社が必要であることを示しています。
※ 変革支援(チェンジマネジメント)とは、新しいシステムや業務手順を組織に定着させるための取組みをいう。技術を入れるだけでなく、現場の納得形成や教育まで含めた支援を指す。
第3章(1)で取り上げた「Retooling the Defense Industrial Base」(防衛産業基盤の再構築)におけるERP Plus(従来のEPRに分析・AI機能を加えた次世代期間システム)、データ標準、旧システム廃止、AIエージェントの議論は、技術導入が単なる装備更新ではなく、組織改革、業務プロセス改革、データ管理改革と切り離せないことを物語っていました。新技術を入れても、古い業務プロセスや重複システムをそのまま残せば、効果は限定的になります。このため、システム統合、ポートフォリオ管理、データガバナンス、利用者側の納得形成を支える専門的なマネジメント機能が欠かせなくなっています。
※ ポートフォリオ管理は、組織が抱える複数のシステムや事業を一覧で管理し、優先順位や投資配分を判断する手法。データガバナンスは、組織内のデータの品質、共有ルール、責任者を定めて運用する仕組みをいう。
こうした状況を背景に、装備やソフトを提供する企業だけでなく、複雑な調達案件の整理、既存システムとの統合、データ基盤の標準化、導入後の運用定着までを支援するコンサルティング会社、システムインテグレーター、プログラムマネジメント企業の役割が広がっていると考えられます。Sea-Air-Spaceのような展示会でも、個別装備の性能を競うだけでなく、政府機関が複雑な技術体系を実際の任務に組み込む過程を支援する企業群の存在感が増している点が印象的でした。
6.さいごに
本イベント全体を通じて顕著だったのが、政府の強いリーダーシップとスタートアップ支援の重要性です。パネルでは、最も速い技術革新は政府内部ではなく、産業界、特にスタートアップや商業分野で起きているとの認識が示されました。一方で、その技術を公的な任務に組み込むには、政府が課題を明確にし、早期に評価し、責任を持って統合する仕組みが必要だと強調されました。
Sea-Air-Space 2026は、将来技術が、政府の明確な需要、産業界の創意、調達制度の柔軟化、運用現場での実証、そして産業基盤への政策投資によって形作られていくことを示す場でした。第4章で見た閉会挨拶における造船産業基盤への強い政治的コミットメントは、こうした全体像を象徴するものだったといえます。
同イベントは国際的な海事・防衛展示会であり、同盟国企業の出展を通じた技術協力の側面も有していました。一方で、展示や議論の中心には、米国の海軍、海兵隊、沿岸警備隊が直面する作戦上の課題、米国の調達制度、造船・国防産業基盤の強化、米国企業による技術提供が置かれていました。その意味で、Sea-Air-Space 2026は、米国が自国の海事防衛力、産業基盤、技術革新、調達改革の方向性を国内外に示す場であり、「米国による、米国のための、米国の展示会」という色彩が濃いものでした。
本イベントは単に最新技術を観察する機会というだけでなく、米国が政府主導で海事防衛産業を立て直そうとしている政策意思を読み取るうえでも興味深い場となりました。我が国の海事関係者としても、個別の技術動向を追うだけでなく、国の産業政策・調達政策の方向性と、その背後にある「システムのシステム」「デジタル・アーキテクチャ」「官民連携」といった発想を継続的に把握していくことが、将来の業務設計に資すると考えます。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
- No.26-11「海外情報 S-A-S 2026 参加報告」
- No.26-10「特集 ドローン規制と運用実態」
- No.26-09「特集 無人運航船の法的責任(英国)」
- No.26-08「月刊レポート(2026年4月号)」
- No.26-07「海外情報 Seabot Maritime社 訪問」
- No.26-06「特集 無人運航船導入PTの動向②」
- No.26-05「海外情報 OI-2026 参加報告」
- No.26-04「月刊レポート(2026年3月号)」
- No.26-03「海外情報 国際救難連盟の活動紹介」
- No.26-02「月刊レポート(2026年2月号)」
- No.26-01「月刊レポート(2026年1月号)」
- No.25-12「特集 2025 年欧州動向と今後」
- No.25-11「月刊レポート(2025年12月号)」
- No.25-10「海外情報 MASS Sympo 参加報告」
- No.25-09「月刊レポート(2025年11月号)」
- No.25-08「海外情報 ICMASS-2025 参加報告」
- No.25-07「月刊レポート(2025年10月号)」
- No.25-06「特集 無人運航船導入PTの動向」
- No.25-05「月刊レポート(2025年9月号)」
- No.25-04「月刊レポート(2025年8月号)」
- No.25-03「月刊レポート(2025年7月号)」
- No.25-02「特集 無人運航船の法的責任(考察2)」
- No.25-01「特集 無人運航船の法的責任(考察1)」
- No.24-01「海外情報 ⾃律船舶での衝突回避の未来」