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No.26-01 記事
26-01-3. 欧州がロシアの影の船隊に対する姿勢を強化

バルト海で新たな海底ケーブル被害が発生したことを受け、複数の国がロシアの影の船隊への対応を強化しています。ここ数週間、バルト海周辺で海底ケーブルの損傷が疑われる事案がさらに報告されました。ロシアによる関与の可能性を指摘する声もあり、NATOやEU加盟国は、重要インフラ防護の観点から警戒を強めています [3-1]

 

12月末の事案について、ReutersやAssociated Press等は、セントビンセント・グレナディーン諸島籍の貨物船「Fitburg」が関与した疑いでフィンランド国境警備隊など当局が捜査していると報じました [3-2]

同船はサンクトペテルブルクを出港し、イスラエル方面へ向かっていたとされ、乗組員はロシア、ジョージア、カザフスタン、アゼルバイジャンなど複数国籍だと報じられています。フィンランド警察(国家捜査局)は、同船が錨を引きずっていた可能性があるとして調査を進めており、故意か事故かは捜査中です。

報道によれば、乗組員14人のうち2人が逮捕され、別の2人に移動制限(渡航禁止)が課されたとされています。捜査対象の罪名は、加重通信妨害、加重器物損壊、加重器物損壊未遂などと報じられています。船舶はその後、捜査の進展に伴い2026年1月12日に解放された一方、一部乗組員は引き続き身柄拘束または移動制限下にあるとされています。

 

2025年1月26日、ラトビアのベンツピルスとスウェーデンのゴットランド島を結ぶ海底光ファイバーケーブルが損傷しました。ラトビア側は外的要因の可能性を示唆し、スウェーデン沿岸警備隊は、マルタ船籍のばら積み貨物船「Vezhen」を捜査の一環で拘束しました [3-3]。同船はブルガリアの海運会社Navibulgar(Navigation Maritime Bulgares)所属と報じられています。その後、スウェーデン検察は本件について破壊工作ではなく事故と判断し、Vezhenは2025年2月3日に解放されました。事故要因としては、悪天候や装備面の不備など、複数の要素が重なった可能性が指摘されています。

 

海底インフラを巡る懸念を受け、欧州委員会は2024年2月26日、「安全で強靭な海底ケーブルインフラに関する勧告」(EU 2024/779)を採択し、加盟国にリスク評価やセキュリティ強化を求めました [3-4]

さらに欧州委員会と外務・安全保障政策上級代表は、2025年2月21日に「EUケーブルセキュリティ行動計画」(Joint Communication)を公表しました。この計画は、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2025年2月9日、リトアニアのビリニュスで開催された「バルト・エネルギー独立記念日」で示した優先事項(予防、検知、対応・修復、抑止)を踏まえています。

行動計画は、(1)予防、(2)検知、(3)対応・復旧(修復)、(4)抑止の4本柱で構成されています。具体的には、監視情報の統合(データ融合)や、空中・水上・水中ドローンの活用、バルト海地域での監視ハブ構築の試行、予備部品の確保、緊急時に修理に投入できる「予備修理艦隊(reserve fleet)」の検討、さらにNATOとの連携強化などが盛り込まれています。また、欧州議会では予備修理艦隊の具体化を求める書面質問も出ています。

 

上記のケーブル事案などを背景に、複数国が「影の船隊」への対応を強化する動きが報じられています。

英国では、制裁逃れの石油輸送などに関与する「影の船隊」への対処について、欧州同盟国と協力して船舶の阻止に取り組む用意がある趣旨の発言をしたと報じられています [3-5]

さらにドイツでも、2026年1月10日、タンカー「Tavian」について、ドイツ連邦警察は虚偽書類や偽のIMO番号の疑いを理由に、ドイツ領海への進入を拒否しました。同船は米国の制裁対象(2021年指定)とされ、偽装された船籍情報を用いていたとも報じられています。こうした進入拒否はドイツにとって異例で、「初めて」とする報道もあります。また、ドイツ当局は2025年12月のタンカー「Chariot Tide」への立入検査や、ロシア調査船「Akademik Boris Petrov」の入域不許可など、重要インフラ防護の観点から警戒を強めているとも報じられています [3-6]

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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