欧州海上安全レポート
欧州海事安全庁(EMSA)は、代替燃料の安全性や車両輸送の防火安全に関する検討の一環として、アンモニア燃料の安全性に関する報告書と、代替燃料車両(AFV)のRo-Ro船輸送に関する報告書を公表しています [1-1]。
なお、EMSAの任務拡大を含む規則改正は、EU官報に2025年12月29日付で掲載され、2026年1月18日に発効しています [1-2]。
最初の報告書は、アンモニアの安全性に関するもので、船舶燃料としてのアンモニアの安全性を検討するEMSAの一連の調査の成果として位置づけられています。
本調査は2023年にEMSAが委託し(契約番号:EMSA/OP/6/2023)、アメリカ船級協会(ABS)が主導する体制で、アテネ国立工科大学(NTUA)およびバレンシア港財団(Fundación Valenciaport)が参画しています [1-3]。
構成としては、少なくともPart 1〜5(特性・規制・事故レビュー、機器安全評価と信頼性分析、一般的設計を対象とするリスク評価、バルクキャリア設計のリスク評価、Ro-Ro船設計のリスク評価)を含み、これらの知見を踏まえた統合・勧告(ガイダンスを含む)へと整理されています。
また、この調査は国際海事機関(IMO)の暫定指針(MSC.1/Circ.1687)と並行して進められたものです [1-4]。
報告書は、アンモニアを船舶燃料として適用する分野はなお未成熟であり、実運用を前提とした安全面の検討が重要だと指摘しています。
本調査では、長期的に見てアンモニアが船舶燃料として潜在的可能性を有するとしつつも、毒性、腐食性、特殊な燃料システムやエンジン設計の必要性など、重大な安全面・運用面の課題が伴うと整理しています。また、アンモニアを船舶推進システムに安全かつ効果的に統合するには、安全プロトコル、規制枠組み、乗組員訓練が重要だという方向性を示しています。
具体的には、①「安全プロトコル」は燃料の取扱い手順、漏えい時の緊急対応、定期点検、換気・検知システム等の運用・装備面の手順を指します。②「規制枠組み」はIMOでの基準整備や各国当局の制度設計、設計・建造基準、港湾での燃料供給規制などの制度面を含みます。③「乗組員訓練」は危険性理解、防護具の使用、緊急時対処、燃料系統の監視・操作といった技能・知識の確保を指します。つまり、アンモニアは将来有望な選択肢である一方、毒性等の特性を踏まえると、「ルール」「運用」「人材」の整備が揃わなければ、安全な導入は難しいという整理です。
次の報告書『Safe Transport of Alternative Fuel Vehicles on Ro-Ro Ships(STARRS)』は、電気自動車やハイブリッド車などの増加を背景に、リチウムイオン電池火災リスクを含む課題を踏まえて、フェリーや自動車運搬船等のRo-Ro船で車両を安全に輸送するための知見整理を行ったものです [1-5]。
本報告書はシリーズの初回として、RISE Research Institutes of SwedenとBureau Veritas Marine & Offshoreが共同で作成しています(Framework Service Contract 2025/EMSA/2024/OP/0033) [1-6]。
研究目的は、船舶搭載のAFVの防火安全性に関する科学的・技術的知見を提供し、業界ガイダンスやIMOレベルでの関連検討に資する材料を提示することです。
報告書では、①海事・非海事(道路トンネル、駐車場等)双方の規制・規則・ガイドラインのレビュー(海事領域30文書、道路トンネル・駐車場等40文書超)、②Ro-Ro区画におけるAFV火災に関する実験的知見の最新状況の整理、③数値モデリング・シミュレーションに関する先行研究のレビューを行い、知見のマッピングとして結論をまとめています。
報告書は、Fremantle Highway(2023年7月25日、オランダ・アーメラント島沖)やMorning Midas(2025年6月3日、アラスカ州アダック島南方沖)などの火災事故も踏まえつつ、車両の安全輸送に対する懸念が高まっている点を背景事情として位置づけています。
また、熱暴走(サーマルランナウェイ)への対応として、検知・消火の組合せを含む対策の検討が課題であることを示し、船種や区画条件によってはアクセス性などの制約も考慮が必要だという問題意識を示しています。
本報告書は、AFVの増加に伴い、フェリーや自動車運搬船(Ro-Ro船)が担う車両輸送の重要性が高まる一方で、防火安全を中心とする課題の理解と対応の必要性が強まっていると指摘しています。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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