欧州海上安全レポート

No.26-12_1 記事
no-26-12_1 レポート2

自動運航船の法的責任

 

きょうどう法律事務所 弁護士・海事補佐人 三好 登志行

 

本稿では、筆者が日本海難防止協会ロンドン事務所の委託を受けて実施した英国[1]の自動運航船に関する刑事責任の調査を基に、衝突事故発生時の責任に焦点を当て、①英国における衝突予防法の適用、②既存船の衝突事故における刑事責任、③自動運航船に対する刑事責任について紹介します。

 

1.英国におけるCOLREGs[2]の適用

 

(1)COLREGsの適用について

英国では、衝突予防に関する法規範は、法律ではなく規則という法形式で、また、COLREGSsを直接引用する形で、定められています。

具体的には、The Merchant Shipping Act 1995(以下、「MSA1995」という)第85条1項は、国務大臣(Secretary of State)に、「安全規則(safety regulations)」と呼ばれる規則制定権を付与し、同条3項(k)は、船舶が関与する衝突を防止するため、また、船舶が関与した衝突の結果に対処するために講ずべき措置を制定することができることを明示しています(これらを受ける形で、The Merchant Shipping (Distress Signals and Prevention of Collisions) Regulations 1996(以下、「Regulations 1996」という)が制定され、同規則のIntroductory Textにおいても、同規則がMSA1995第85条に基づいて規定されたことが明示されています)。そして、同規則4条は、原則として、規則の適用を受ける船舶は、国際規則(International Regulations)の第1条から第36条までの規定および附属書I〜IIIの規定を遵守しなければならない旨を定めています。

 

(2)操船資格について

英国の操船資格に関する分類は、我が国と比べてやや複雑です。

英国では、まず、大きな分類として、①商業利用目的か否か、②船舶の長さが24メートルを超えるか否か、という2つの軸によって区別しています。その上で、①商業利用目的の船舶については、総トン数500トン未満かそれ以上かによって区別されています(MSA1995第47条等参照)。日本の船舶職員及び小型船舶操縦士法の1級海技士(航海)から3級海技士(航海)に対応するものとして、Master(Unlimited)、Chief Mate(Unlimited)、OOW(Officer of the Watch)などが存在します(The Merchant Shipping (Standards of Training, Certification and Watchkeeping) Regulations 2022、3条、4条、6条及び7条、MSN  1856 (M+F) Amendment 1)。

前期②に関し、長さ24メートル未満の船舶のうち、レジャー及びスポーツ目的以外の非商業利用については、操船資格が不要となっている点が我が国とは大きく異なる点です。もっとも、港湾の利用や保険加入の要件として、RYA(Royal Yacht Association)の資格が求められることがあるようです。

 

2.英国において既存船が衝突した際の刑事責任

 

(1)衝突事故発生時に関与する機関について

英国においては、海難事故が発生した場合、第一義的には、Maritime and Coastguard Agency(以下、「MCA」という)が対応することとなります。MCAは、MSA1995第258条に基づき、船舶とその装備について検査する権限を有しており、船舶の安全性やMSA1995の各規定の遵守状況などを確認することができます。

他方で、事故調査の観点からは、Maritime Accident Investigation Branch(以下、「MAIB」という)が対応することとなります。MAIBは、日本の運輸安全委員会に相当するもので、MAIBによる事故調査は、MSA1995第267条及びThe Merchant Shipping (Accident Reporting and Investigation) Regulations 2012に基づく調査として実施されます(その目的は、当該事故の原因および状況を明らかにすることを通じて、将来の事故の防止を図ることであり、責任の有無を判断することではなく、またその目的を達成するために必要な範囲を除き、非難の所在を明らかにすることでもない(同規則5条1項、2項)とされています)。

また、海上における船員に労働が関係する事故が発生した場合、Health and Safety Executive(以下、「HSE」という)の管轄が重複することになります。HSEは、Health and Safety at Work etc. Act 1974(以下、「HSWA」という)第10条に基づいて設立された機関で、HSEの検査官には、立入調査、質問・検査、証拠の収集などの権限が付与されている(同法20条)点が特徴的です。

上記各機関の役割は、Operational Working Agreement (以下、「OWA」という)によって整理されています。詳しい説明は割愛しますが、OWAの4項では、基本原則(Overarching Principle)が示され、船長の管理下にある通常の船内活動(HSWAの適用の有無を問わない)、または、HSWAの適用対象外の活動(船長の管理下にあるか否かを問わない)の場合、執行(enforcement)についてはMCAまたは旗国(Flag State)が主導し、事故調査についてはMAIBが主導する、という基準が示されています。

また、HSWAの他、英国では、homicide offences(殺人関連罪)の場合に、警察も捜査を行うこととなります。警察と他機関との役割分担については、Work-related Deaths: A protocol for liaison (England and Wales) [3]に詳しく定められています[4]。例えば、船舶の衝突事故による死亡事案で操船者の過失が疑われ、MSA1995第58条違反に該当し得る可能性があり、他方で、重過失致死(gross negligence manslaughter)の嫌疑がある場合には、MCAと警察の両機関が捜査を行うこととなります。

 

(2)MCAによる捜査について

MCAは、MSA1995及び関連法令の執行を担う法定機関で、MSA1995違反に対して法執行を行います。

MCAが調査の対象とすることが多い犯罪類型は、ア、汚染、イ、衝突違反(IRPCS)、安全ではない運航(船舶所有者・オペレーター・使用者による)、ウ、危険を及ぼす行為(船長および乗組員による)、エ、危険物の輸送、オ、詐欺行為(船員資格証明書に関する)となっています。

MCAは、単なる行政機関であるにとどまらず、違反に対する各種の制裁に関して、証拠等を収集します。語弊を恐れずに別の言い方をすれば、行政機関としての調査(日本法でいう、いわゆる監査に近いものと思われます)と司法機関としての捜査とが重なる役割を果たしていることになります。

 

(3)海事犯罪発生時の訴追について

英国においては、コモンロー上、私人による訴追が認められてきました。このため、Crown Prosecution Service(以下、「CPS」という)[5]以外の主体であっても、訴追が可能です。これは、我が国が検察官による起訴独占主義[6]を取っている点と比較して、大きな違いです。立法上も、Prosecution of Offences Act 1985第6条1項において、‟nothing in this Part shall preclude any person from instituting any criminal proceedings“とされており、「本編のいかなる規定も、いかなる者が刑事訴追を提起することを妨げるものではない」ことが明示されています。なお、実務上も多くの私人訴追が行われており、私人による訴追は、CPSによる訴追を補完する位置づけを持つものの、費用の高額化や個人での訴追は困難であることが指摘されています[7]

そして、CPS以外による訴追の1つとして、MCAによる訴追があります。MSA1995の違反及び同法違反に基づく犯罪については、MCAが訴追権限を有します。MCAの訴追権限は、次の①②③により基礎づけられています。

①MSA1995第256条第1項 により国務大臣が船舶検査官に一定の事項について報告を求めることができるとしていること

②同法によりMCAに付与されている法執行(enforcement)には、刑事訴追(proceeding)を含むと解釈されていること

③同法第58条では、イングランドおよびウェールズにおいては、国務大臣または公益訴追局長(Director of Public Prosecutions)の同意によらない限り訴追できないとされており、この規定は、MCAに訴追権限が与えられていることが前提とされていると解釈できること

MCAも自ら、「商船法および関連法令の執行を担う法定機関で」あり、「英国全域において法令違反の重大性に応じた法的措置を講じ、制裁を科す広範な権限を有してい」ると述べ、「起訴はMCAが取り得る最も重大な法的措置ですが、起訴に先立ち検討されるべき行政制裁の選択肢も複数存在」[8]する、と述べています。

もっとも、重過失致死罪での立件が可能な場合には、CPSが起訴することとなります。他方で、重過失の立証が難しく、MSA1995違反が立件される場合には、MCAが起訴することとなります。

 

(4)適用され得る主な犯罪類型について

船舶衝突事故発生時に適用され得る主な犯罪は、次の通りです。

①Regulations 1996違反の罪

同規則第6条は、ア、犯行の主体を①当該船舶の所有者、②船長、または、③その時点で船舶の運航に責任を有する者とし、①には、法人が排除されていなことから法人を含むものです。また、③は、実質的な操船判断を行う者が含まれます。

イ、行為として、Regulation1996への違反の行為であり、具体的には、COLREGsへの違反が犯罪の対象となります。

ウ、主観面として、mens rea(犯意)[9]の立証は不要とされており、同法第6条2項によれば、「本規則に基づいて起訴された者は、当該違反の発生を防ぐために、あらゆる合理的な予防措置を講じていたことを示すことができれば、それを抗弁とすることができる。」とされており、合理的な予防措置(reasonable precaution)の立証により、犯罪の成立が否定されることとなります。

エ、刑罰は、起訴(indictment)により有罪となった場合には、2年を超えない拘禁刑及び罰金です(同条1項)。また、略式手続(summary conviction)[10]による有罪の場合には、COLREGs Rule 10(b)(i)の違反については、5万ポンドを超えない罰金とされ、その他のすべての場合には、法定最高額(statutory maximum)を超えない罰金とされています。なお英国においては、Legal Aid, Sentencing and Punishment of Offenders Act 2012により、罰金刑の上限が撤廃され、無制限に罰金刑を科することが可能です(同法85条)。

 

②その他の犯罪

そのほか、MSA1995第58違反の罪、同第98条違反の罪、同第100条違反の罪、Gross Negligence Manslaughterの罪、Corporate Manslaughter and Corporate Homicide Act 2007の罪などの犯罪が関連するものとなりますが、紙片の都合上、その概略を紹介するにとどめます。

MSA1995第58条違反の罪は、船舶、構造物または個人を危険にさらす行為を犯罪として規定され、自船上またはその直近の場所において、人の死亡または重傷を生じる行為をしたとき、または、自船に乗船している者の死亡または重傷、自船が他の船舶または構造物に喪失・破壊・重大損傷を与えること、または乗船していない者の死亡または重傷を引き起こすことについて、防止するために必要な行為を怠ったときに成立します。

また、同第98条は、船舶が危険なほど不安全である場合の船長及び所有者の罪を定め、同第100条は、船舶の所有者に、当該船舶が安全な方法で運航されることを確保するために、あらゆる合理的措置を講ずる義務を課し、その違反を犯罪としています。

Gross Negligence Manslaughterの罪(以下、「GNM」という)は、重過失致死罪であり、重過失致死罪は、成文法ではなく、判例法に基づく犯罪です。R v Adomako [1995] 1 AC 171によれば、(a)被告人が死亡した者に対して注意義務を負っていたこと(b)被告人が過失ある作為または不作為によって、その注意義務に違反したこと、(c)その過失ある作為または不作為が死亡の原因となったこと、(d)死亡の原因となったその過失が、重大な過失(gross negligence)に当たり、したがって犯罪となること、が要件として求められています[11]。注意義務違反によって、衝突事故が発生し、死者が出た場合、MSA第58条違反の罪とGNMの成立範囲が一見重複するように見えますが、通常は、MSA第58条違反の罪で立件されることが多いようです。GNMは、注意義務への違反は、重大かつ明白な死亡の危険を生じさせることが合理的に予見可能であったことが求められ、さらには、注意義務違反は、重大(すなわち犯罪的)であるほど悪質でなければならないとされており、立件へのハードルは、MSA第58条違反の罪に比べて非常に高いものとなっています。

Corporate Manslaughter and Corporate Homicide Act 2007の罪は、個人ではなく、法人(企業)の過失致死を処罰する新しい法律です。この法律は、1987年3月6日に発生した、RORO船“Herald of Free Enterprise“号が、ベルギー・ゼーブルッヘ港を出港直後、船首ランプ(ボウドア)が開いたまま航行したため、船首から大量の海水が流れ込んだことにより転覆し、193名が死亡した事故の裁判において、船長、航海士等へのGNMの成否が問題になったところ、全員が無罪となったことを契機に立法化されたものです。個人ではなく法人の責任追及が可能である点、我が国の法人処罰における、いわゆる両罰規定[12]とは異なり法人独自の責任を追及できる点に大きな特徴があります。

 

(5)量刑・執行猶予

上記犯罪のうち、GNMは、コモンロー上の犯罪であり、最高刑は終身刑となっています。量刑の範囲は、ガイドライン[13]によって示され、過失の程度(A〜D)によって量刑が大きく変動し、出発点は2〜12年の範囲、最終的な範囲は1〜18年が基準とされています(もっとも、無期懲役の可能性も制度上は存在することが明示されています)。我が国では、業務上過失致死罪(刑法211条)の法定刑の上限は、5年以下の拘禁刑とされていることと比べると随分と厳罰化されているように思われます。

また、英国においても、執行猶予の制度が存在します。その根拠となるのは、Sentencing Act of 2020 です。同法277条は、被告人に対し、14日以上2年以下の拘禁刑(imprisonment)を言い渡す場合に、執行猶予命令(suspended sentence order)を付すことができると定めています(同条1項及び2項)。そして、同法286条1項は、執行猶予命令(suspended sentence order)の定義を定め、同法288条1項は、執行猶予命令には、運用期間(operational period) を明示しなければならないとし、その期間は、少なくとも6月以上2年以下の範囲内でなければならないとしています。刑の執行猶予には、無償労働などが付加できるとされています。このように、おおむね我が国と同種の執行猶予の制度が存在しますが、無償労働の付加といった点は我が国では立法化されていない付加刑であり、大きな特徴です。

 

3.英国における自動運航船に対する刑事責任の検討

最後に、英国法下での、自動運航船による死亡事故について生じ得る刑事責任を検討します。自動運航船特有の課題として、①通信の遅延による操船への影響、②主電源等の喪失・通信遮断による操船不能、③システムのシャットダウンによる操船不能、④遠隔操船についての未習熟、⑤フォールバックへの不対応、⑥システムの欠陥などがすぐに想起されます。これらの問題は、遠隔操船又は自動運航がない時代には想定されていなかった問題です。以下においては、①及び⑥を取り上げ、①では、人が死傷した場合のRemote Operation Center[14](以下、「ROC」といいます)のオペレーターの刑事責任の有無、⑥では、システムの設計者等の刑事責任を中心に検討を行います。

 

(1)通信の遅延による操船への影響の結果、人が死傷した場合

ROCと本船との通信の遅延そのものは、直ちに何らかの違法を導くものではありません。しかしながら、通信の遅延も操船影響し、運転不自由船(COLREGs Rule3 (f))に該当する場合には、運転不自由船としての法定灯火の表示(COLREGs Rule 27)が必要となります。

 

ア、Regulation 1996違反の罪

英国では、前記2(4)で示したように、COLREGs違反は、Regulaiton1996への違反となります。本船が遠隔操船により、ROCからの指揮監督のもと操船され、船上には操船に関する責任者がいない場合、本船を指揮監督しているROCの職員は、同規則6条の“the master and any person for the time being responsible for the conduct of the vessel”のいずれかに該当しうることとなり、Regulation 1996違反の罪が成立し得ます。

 

イ、MSA1995第58条違反の罪

MAS1995第58条違反を検討するに際して、ROC のオペレーターが同条1項の英国籍船の船長またはその船に雇用されている船員に該当するか否かが問題となります。船長の概念は、同法313条で定義づけられており、ROCのオペレーターを含みうる概念であり、船員の定義からも、含まれる可能性があるように思われます。

そして、法定灯火の表示は、操船を指揮監督しているROCのオペレーターの義務であることから、灯火の表示がない場合には、職務上の義務違反(同条4項)を構成するものと思われます。

よって、同法58条違反の罪が成立する可能性があります。

 

ウ、GNMの罪  

本罪の成立には、注意義務違反が、重大かつ明白な死亡の危険を生じさせることが合理的に予見可能であったことが求められます。また、注意義務違反は、重大(すなわち犯罪的)であるほど悪質でなければならないことが必要とされます。具体的には、被告人の立場にある合理的に慎重な人物であれば、被告人の行為または不作為から「重大かつ明白な死亡の危険」が生じることを予見したであろうという事情が存在したこと、及び注意義務違反が、すべての状況において、被告人の資格・経験・責任を持つ者に期待される基準から著しく逸脱し、非難に値し、犯罪に当たるほどであったことの要件を満たす必要があります。

このため、単に通信が遅延する可能性があったという程度ではこれらの要件を満たさず、同罪の罪は成立しないものと思われます。なお、GNMの罪は、死亡の結果が発生した場合にのみ成立し得るため、人に生じた結果が傷害の場合は、不可罰です[15]

 

エ、Corporate Manslaughter and Corporate Homicide Act 2007の罪

本罪の成立には、ROCのオペレーターあるいは通信の健全性ないし冗長性を担保する立場にある者が、上級管理職に該当し、組織の活動の管理または運営の方法が、当該組織が被害者に対して負っていた関連する注意義務の重大な違反に該当する場合に、本罪が成立する可能性があります。もっとも、上級管理職とは、組織の活動全体またはその重要部分について、(i) 管理または運営方法に関する意思決定に重要な役割を果たす者、または、(ii) 実際にその活動全体または重要部分を管理または運営している者をいう(同法1条4項(c))ため、単にその場において、ROCのオペレーターが操船を指揮監督しているというだけでは不十分です。また、重大な違反とは、当該義務違反を構成するとされる行為が、当該状況において組織に合理的に期待される水準を著しく下回る場合をいう(同法1条4項(b))、とされていることから、成立範囲はかなり限定されるものと思われます。既存船[16]においても、同罪が成立することは殆どないようです。

 

(2)システムの欠陥により、衝突事故が発生し、死傷結果が生じた場合

ソフトウェアの開発者は、直接、船舶の操船を指揮したり管理したりする者ではないため、Regulation 1996第6条1項の“any person for the time being responsible for the conduct of the vessel”には該当しない可能性が高いものと思われます。したがって、同法違反の罪は成立しません。また、MSA1995第58条1項の「英国籍船に雇用されているすべての船員」には該当しないため、同条の成立も難しいように思われます。また同法98条の罪も、犯行の主体を、船長又は船主に限定しているため、成立しません。

さらに、GNMの成立についても、プログラム設計の時点において、①ソフトウェア開発者の立場にある合理的に慎重な人物であれば、自らの行為または不作為から「重大かつ明白な死亡の危険」が生じることを予見したであろうという事情が存在したこと、及び②注意義務違反が、すべての状況において、ソフトウェア開発者の資格・経験・責任を持つ者に期待される基準から著しく逸脱し、非難に値し、犯罪に当たるほどであったことが求められますが、ソフトウェア開発者としては、COLREGsやその他関係法規を遵守するようにソフトウェアを設計するでしょうから、通常、GNMは成立しないものとなると思われます。もっとも、特定のシチュエーションにおいて、衝突のおそれや、他船の緊急の避航措置により避航が行われたこと、実際事故が自動運航により発生したことなどが報告されていたにも関わらず、ソフトウェアの修正などを行わなかったような場合には、その時点をとらえて、GNMの成立が認められるケースは全くないとは言い切れないように思われます。

Corporate Manslaughter and Corporate Homicide Act 2007の罪の成立についても、ソフトウェア(主に避航システム)の設計において避航の安全性を担保する立場にある者が、上級管理職に該当し、組織の活動の管理または運営の方法が、当該組織が被害者に対して負っていた関連する注意義務の重大な違反に該当するような場合には、同罪が成立するものと思われますが、先にみたように同罪が成立する範囲はかなり限定的です。

 

4.さいごに

本稿では、英国の衝突事故に関連する法規及び刑事責任の概略を確認した後、自動運航船の刑事責任が生じるいくつかの場面を、英国法の視点から検討してきました。

自動運航船による操船は、操船者の負荷低減、事故の減少などが期待される反面、これまで以上に多様な主体・組織・機器・技術が操船に関係することとなります。

従来、我が国の海技従事者への教育の場面では、海上衝突予防法は、罰則を定めたものではない、といった教えがなされてきました。しかし、英国では、同法違反が犯罪として定められており、また、個人のみならず、船舶所有者といった法人の責任をも規定しています。さらに、“Herald of Free Enterprise“号の事故を契機に、我が国のいわゆる両罰規定と性質の異なる法人(企業)過失致死罪が制定されました。

今後、自動運航船に関する運航・技術が発展・促進されるためには、企業・組織における個人が安心して取り組める環境が必要となります。また組織内における一個人に安全への取組みを求めることには限界があります。このような観点からみた場合、関与する個人の責任、特に死傷結果に対する過失犯(業務上過失致傷罪)や各種の罰金刑を中心とした法令違反のみでは、我が国における衝突事故の予防にとって十分ではない場面も出てくるようにも思われます。

自動運航船については、今後、運航面における法整備が我が国及び各国において加速されていることになるものと思われますが、並行して、安全性を担保するための1つの側面である刑事法制についても、引き続き各国の動向を注視していく必要があるものと思われます。                               

以上

 

【執筆者紹介(三好登志行)】

 

三好登志行(弁護士、海事補佐人)

きょうどう法律事務所(佐藤健宗法律事務所)

〇略歴

 

1999年 東京商船大学商船システム工学過程航海学コース入学(2001年中途退学)

 

2008年 神戸大学法科大学院卒業

 

2010年 弁護士登録。

 

2016年 海事補佐人登録

 

2025年 神戸大学大学院海事科学研究科博士後期課程 修了

 

〇主な取扱分野

 

船舶衝突事故(海難審判、刑事事件、民事事件)

 

〇これまでの主な論文

 

「海上衝突予防法5条の『見張り義務』の法的意義について:自動運航船を見据えて」三好登志行、藤本昌志、海事法研究会誌2019年5月号・2頁

 

・「海上衝突予防法39条の「船員の常務」の法的解釈について―海難審判裁決取消請求判決から見た検討―」三好登志行、藤本昌志、海事交通研究第68, 87-98, 2019

 

“Study of Principles in COLREGs and Interpretations and Amendments COLREGs for Maritime Autonomous Surface Ships (MASS)”,Toshiyuki MIYOSHI, Shoji FUJIMOTO, Matthew ROOKS, Transaction of Navigation, 2021, vol 6,no1,pp11-18.

 

DOI: https://doi.org/10.18949/jintransnavi.6.1_11

 

“Rules required for operating maritime autonomous surface ships from the viewpoint of seafarers”, Toshiyuki Miyoshi, Shoji Fujimoto, Matthew Rooks, Tsukasa Konishi and Rika Suzuki, The journal of navigation, pp. 1 – 16.

 

DOI: https://doi.org/10.1017/S0373463321000928 Published online by Cambridge University Press:  10 February 2022

 

・「船舶の自動運航(MASS)と刑事責任-専門性、新技術に対する観点から-」三好登志行、藤本昌志、海事法研究会誌2025年206号・2頁

 

〇これまでの主な研究会委員等

 

海上保安庁「自動運航船の運航にかかる勉強会」(2018年、2019年)

 

海上保安庁「自動運航船に対するCOLREG適用の在り方に関する検討委員会」

[1] 本稿では、英国と呼ぶ場合、主に、イングランドとウェールズを指すものとします。

[2] COLREGsとは、Convention on the International Regulations for Preventing Collisions at Sea, 1972の略称であり、我が国では、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約と訳され、海上衝突予防法により、国内法化されています。自動車における道路交通法に対置されるものであり、海の交通ルールを定めたものです。

[3] https://www.orr.gov.uk/sites/default/files/om/Work-related-Death-Protocol.pdf

[4] 具体的には、「過失による殺人の疑いがある場合(または医学的見解により死亡の可能性が高いとされる場合)、警察が調査を行う。」ことや、「調査(捜査)は『Work-Related Deaths Protocol: Practical Guide』に従って、共同で実施・管理される。」こと、「調査(捜査)中は、いずれかの機関が『主導権(primacy)』を担う」こと、「共同調査に関与するすべての機関は、主導権の有無にかかわらず、それぞれの調査を進めるよう努める」といったことが定められています。

[5] 日本における検察庁に相当する機関です。

[6] 刑事訴訟法第247条は、「公訴は、検察官がこれを行う。」として、起訴権限を検察官が独占することを規定しています。

[7] 近年の英国における私人訴追の現状については、Private prosecutions: safeguards: Government Response to the Committee’s Ninth Report, https://committees.parliament.uk/publications/4916/documents/49317/default/

[8] https://www.gov.uk/government/publications/mca-enforcement-policy-statement/mca-enforcement-policy-statement

[9] 英国では、主観面について、mens reaと呼ばれる主観的要素が求められてきました。mens rea は心理的要素として説明され、かつては、“malice aforethought”として知られ、我が国においては、犯意などとして翻訳されることが多いものです。意識的な計画や故意だけでなく、それほど意図的ではないものの非難可能な精神状態、たとえば軽率さ(recklessness)や過失(negligence)といったものも含まれます。mens rea の立証を必要としない犯罪は絶対責任(absolute liability)と呼ばれ、犯罪行為(actus reus)の一部(ただし全部ではない)について mens rea の立証を要しない犯罪、あるいは検察が立証を終えた後に、被告側が犯罪意思の不存在を反証しなければならない犯罪は、厳格責任(strict liability)と呼ばれるもので、本規則もその1つです。

[10] 英国では、全ての犯罪は、治安裁判所(Magistrates’ Courts)から始まる (Magistrates’ Courts Act 1980第1条)ことになっています。また、Crime and Disorder Act 1998第51条は、成人が犯罪の嫌疑で治安裁判所に出廷または連行され、以下の第2項の条件のいずれかを満たす場合、治安裁判所は直ちにその事件をクラウンコートへ移送し、審理(起訴審理)を受けさせなければならない、と定めています。具体的な説明は割愛しますが、重罪(indictable offence)の場合、又は治安裁判所・クラウンコートいずれでも審理可能な場合において一定の要件を満たすときにはクラウンコートに移送されます。いずれの裁判所で審理されるべきかは、通常法律において規定されています。

[11] https://www.cps.gov.uk/prosecution-guidance/gross-negligence-manslaughter

[12] 我が国の法制度においても、一部、法人の処罰を定めたものがあります。しかしながら、それらの法制度は、主に、個人を処罰できる場合に、法人も処罰する、といった形式をとっています(このため、個人と法人との「両罰」と呼ばれています)。これらの両罰規定は、個人の責任とは別に法人の責任を追及するものではありません。

[13] https://sentencingcouncil.org.uk/guidelines/gross-negligence-manslaughter

[14] 日本語訳はいくつかありますが、遠隔操船所などと訳されることがあります。もっとも、ROCは移動する場合も想定されており、centerは場所のみならず機能としての意味合いを持つものと思われます。

[15] この点は、我が国が傷害の結果発生の場合も可罰的としている点において大きく異なります。死亡は、実際に死亡する必要があり、重大な後遺障害が残るようなケースであっても、同罪は成立しないとされているようです。

[16] 自動運航船と区別して、従来の船舶を既存船と言います。

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