欧州海上安全レポート

No.25-11_1 記事
No.25-11-1. EMSA、安全に関する包括的報告書を公表

2025年12月8日、欧州海事安全庁(EMSA)は海事安全報告書「European Maritime Safety Report(EMSAFE)」の第2版(対象期間:2019~2023年)[1-1]を公表しました[1-2]。本報告書は、EUおよび国際的な安全基準の発展・適用状況を踏まえつつ、EU域内の海事安全の現状と課題を整理することを目的としています。

報告書は海事安全に関する幅広いテーマを扱っていますが、特に次の点が重要課題として示されています。

 

第一に、EU加盟国旗を掲げて運航する旅客船の高齢化です。安全基準は原則として遡及適用されないため、古い基準で建造された船が一定数残ることが懸念されています。報告書によれば、EU加盟国旗の旅客船のうち38%は、損傷時復原性の基準がSOLAS 1960および1974に基づいていた時期に建造されています。

 

第二に、船員(船長・士官等)の確保と就業環境です。2019年と比べて、EU加盟国が発給した有効な資格証書(CoC)を保有する船長・士官の人数は2023年末時点で20%減少しており、英国のEU離脱の影響を調整しても7%減とされています。加えて報告書は、船員の就業条件が依然として厳しく、職業としての魅力に影響している点を指摘しています。

 

第三に、脱炭素化と技術革新に伴う新たな安全課題です。報告書は、代替燃料の導入が進む一方で新しいリスクが生じうること、バッテリー(船上の蓄電システム等)に関する国際的な安全基準が十分に整っていないこと、さらに自動化(MASS)を含む技術進展に合わせたリスク評価や人材・訓練の重要性を挙げています。また、旅客船分野では老朽化に加え、Ro-Ro船内での電気自動車火災など新しい火災リスクにも注意が必要としています。

 

なお同日、EMSAはリスボン本部で欧州海事安全会議を開催し、EMSAFE第2版の公表は、EUの海事安全課題を共通のデータと認識に基づいて議論する出発点として位置づけられました。

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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