欧州海上安全レポート
過去数か月、EU域内では全地球測位衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)信号に対するジャミング(妨害)やスプーフィング(偽装)が各地で問題化しており、理事会(閣僚理事会)や欧州議会、関係機関の実務レベルで対応が議論されています。
理事会では、2025年12月5日の運輸・電気通信・エネルギー理事会で、リトアニアからGNSSのジャミング/スプーフィングに関する情報提供が行われました[3-1]。加盟国側の説明では、影響は航空分野にとどまらず、海運など他分野にも及んでいるとされています。また、妨害は偶発的というより、ロシア側(例:カリーニングラード等)に関連する発生源が増加しているとの問題意識が示されており、国際的な枠組みの観点からも深刻な課題として扱われています[3-2]。
欧州議会でもこの問題への注目は高まっています。たとえば2025年9月10日の討議[3-3]では、GNSS妨害が航空・海運の安全に与える影響が議題となり、欧州委員会側は「国際的な場での対応」だけでは不十分で、EUとして調整された行動が必要だとの立場を述べています[3-4]。さらに、航空分野では関係者と行動計画を準備中であること、海上分野でも加盟国・EMSAとともにインシデント共有等の枠組みを進めていることに言及しています。
実務面では、EMSAにおいてAISスプーフィングへの対応が進められています。HLSGがAISスプーフィングに関する作業部会の運営文書(ToR)を採択し、加盟国が専門家を指名したうえで、2024年11月19日にリスボンで第2回会合を開催し、AISスプーフィングの検出・評価や、GPS/GNSS妨害に関する知見共有を行っています[3-5]。また、EMSAは第10回自動行動監視・高度分析ワークショップを開催し、11加盟国と6つのEU機関から37名が参加して、AISスプーフィングの検出やGPS/GNSS妨害が異常行動監視(ABM: Anomaly Behavior Monitoring)アラートに与える影響などを議論しています[3-6]。
運用レベルでは、Frontexが2025年11月26日、航行信号がジャミングまたはスプーフィングされた際に巡視船の状況認識を支援するため、Galileoの航法メッセージ認証機能サービス「OSNMA: Open Service Navigation Message Authentication」を組み込んだ「Galileo-enabled asset tracking demonstrator」の小規模パイロットを実施したと発表しています[3-7]。参加機関にはEUSPA、ルーマニア沿岸警備隊、欧州委員会JRC、産業パートナーが含まれます。
総じて、GNSS妨害は航空だけでなく海上分野にも波及しており、加盟国側からはEUレベルでの調整・協調の必要性が繰り返し提起されています。今後は、欧州委員会が示している航空分野の取組や、海上での情報共有枠組みが、実効的な対策(技術・運用・国際対応)にどうつながるかが焦点になります。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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