欧州海上安全レポート
10月の国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会(MEPC)におけるネットゼロ枠組み(NZF)の採決延期を受け、欧州連合(EU)は依然として今後の対応策を検討中です。欧州委員会の会合で、アポストロス・ツィツィコスタス委員(持続可能な交通・観光担当)は、「EUは昨年10月のIMOでの出来事に未だに多少のトラウマを抱えている」と述べたとされています。
一部のEU加盟国は、この問題でEUの立場から距離を置いたギリシャとキプロスに対し、依然として強い不満が残っているとみられます。欧州委員会の最優先課題は、EUの結束を改めて確保することのようです。この問題に関する内部協議も重ねられており、今後の解決策を見出すことが目的とされています。さらに、ギリシャがサウジアラビアとNZFに関する共同提案を準備しているとの報道もあり、事態をさらに複雑化させる可能性があります [2-1]。
ツィツィコスタス委員は、アメリカ合衆国が今後も各国に対し、あらゆる形態のグローバル解決策を拒否するよう圧力をかけ続ける可能性が高いとして、IMO/NZF問題について「あまり楽観視していない」と述べたとされています。なお、米国は2025年10月10日の共同声明で、支持国への報復措置(港湾措置、ビザ制限等)に言及しています [2-2]。
とはいえ、同委員はEUに対し「計画を堅持」し、各国への支援を継続して(再び)参加させるよう求め、不安定な地政学的状況を踏まえた慎重な対応の重要性を強調したとされています。
【参考】 2025年10月 IMO MEPC臨時会合での採決延期の経緯
NZFは、国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出を2050年頃までにネットゼロにすることを目指すIMOの規制枠組みです。NZFは、グローバルな燃料基準と、グローバルなGHG排出価格メカニズムを含む枠組みとして整理されています [2-3]。5,000総トン以上の船舶に適用され、これらが排出の大部分を占めるとされています。
2025年10月14日から17日にかけてロンドンで開催されたIMO海洋環境保護委員会の第2回臨時会合(MEPC ES.2)は、NZF採択の重要な転機となるはずでした。しかし、シンガポールが1年延期の動議を提示し、サウジアラビアが採決を求めた結果、会合は交渉を1年間延期する決定で終了しました [2-6]。
10月17日の最終日、委員会は投票により(棄権・欠席を除く)57対49で、臨時会合を1年延期することを決定しました(棄権21、欠席8)。
この延期の背景として、米国が強い反対姿勢を示し、支持国への報復に言及したことが報じられています [2-4]。
また、EU内部でも足並みの乱れが表面化しました。EUは通常、IMOで統一した立場を維持することを重視していますが、延期の採決においてギリシャとキプロスが棄権し、EU内で問題視されました(法的措置の検討報道もあります)。こうした動きは、両国の海運業界が追加コストの増加に強い懸念を持っていることを背景として指摘されています。
今後、会議は2026年10月に継続される予定で、採択がその時点になった場合、発効は早くても2028年3月1日以降となる見通しです [2-5]。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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