欧州海上安全レポート

No.26-24「海外情報 SMM 2026 参加報告」
26-24_1 記事

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2026年9月、ドイツ・ハンブルクで開催された「SMM 2026」に参加し、海事分野におけるAI・無人システムの実装や、海洋安全保障・防衛分野の動向について調査してきました。

今回のSMMでは、AIや無人・自律システムについて、単に技術的な可能性を議論する段階から、船舶設計、運航、海洋状況把握、安全保障等の実際の業務にどのように組み込むかという「実装」の段階へ移りつつあることが印象的でした。

また、民間海事分野と防衛分野では目的や運用環境は異なるものの、AI、無人システム、センサー、データ、通信、サイバー等の基礎技術には共通点が多く、今後は両分野の技術や知見を相互に活用していくことも重要と考えられます。

 

《記事ポイント》

1.イベント概要

 ○ 2026年9月、ドイツ・ハンブルクで開催された世界最大級の総合海事展示会

 ○ 66か国から約2,300社が出展し、海事産業のほぼ全領域を展示

 ○ 今回は海洋安全保障・防衛分野の展示が拡大

 

2.海事分野におけるAIの活用と実装

 ○ AIの活用は、船舶設計、運航、自律化、燃費最適化等の実装段階へ進展

 ○ AIは人を代替するものではなく、人の判断を支援する手段としての活用が重視

 ○ 信頼性の確保、責任の所在、検証手法の確立が課題

 

3.海洋安全保障・防衛

 ○ 有人・無人システム、AI、センサー、データを組み合わせた能力整備が進展

 ○ 技術だけでなく、運用方法、組織、制度、人材の整備を含めた実装が重要

 ○ 海洋状況把握等では、情報の取得に加え、官民での情報共有・連携が鍵

 

4.所感

 ○ AI・無人システムは、技術開発から実際の運用・実装を重視する段階へ移行

 ○ 民間と防衛では目的や運用環境は異なるものの、基礎技術には共通点が多い

 ○ デュアルユース技術を軸とした両分野の相互活用が有効

 

《記事本文》

1.はじめに

2026年9月1日から4日まで、ドイツ・ハンブルクのHamburg Messe und Congressにおいて「SMM 2026」が開催されました。

SMM(Shipbuilding, Machinery & Marine Technology)は、1963年に始まり、現在は2年ごとにハンブルクで開催されている世界最大級の総合海事展示会です。

今回は、展示会に加え、会期中に開催されたカンファレンスのうち、海事分野におけるAIの活用と実装、及び海洋安全保障・防衛をテーマとする2つのカンファレンスに参加しました。

以下、当事務所が注視しているAI、無人システム及び海洋状況把握(MDA)に関する動向を中心に、展示会及び各カンファレンスの概要を報告します。

 

2.展示会概要

主催者の発表によると、SMM 2026には66か国から約2,300社が出展し、12の展示ホールにわたる展示面積は9万平方メートルを超えました。出展企業の70%以上をドイツ国外の企業が占め、国別パビリオン及び代表団も計26に上ったほか、参加者も134か国から5万人を超えるなど、国際色豊かな展示会となりました。

展示分野は、造船、舶用機器、推進・機関から、環境・エネルギー効率、安全、航海・通信、電気・電子、自動化、デジタル・AIまで、海事産業のほぼ全領域に及びました。中でも、従来から中心的なテーマである脱炭素化やデジタル化については、代替燃料、エネルギー効率、自動化、AI等に関する展示が数多く見られました。主な出展者には、Damen Shipyards、Fincantieri、Navantia等の造船会社、Kongsberg、Bosch Rexroth、Anschütz等の舶用機器・自動化関連企業のほか、DNV、ABS、Lloyd’s Register等の船級協会も名を連ねました。

今回は、脱炭素化やデジタル化といった従来のテーマに加え、海洋安全保障・防衛分野の展示が大きく拡大したことが特徴でした。会場内に設けられた「Naval Hall」には50社を超える企業・組織が出展したほか、会場全体でも150社を超える企業が、サイバーセキュリティ、無人システム、海洋監視、重要インフラ防護等の分野で、商船と艦艇の双方に利用可能なデュアルユース技術を展示しました。

 

3.カンファレンス概要

(1)海事分野におけるAIの活用と実装

9月2日に開催された「Maritime Future Summit」(テーマ:生成AI)は、①「AI Design」、②「AI Operated Vessels」、③「AI to Save Fuel」の3セッションで構成され、各セッションでは3名の講演に続いてパネルディスカッションが行われました。船舶設計、運航、自律化、機器監視、燃費最適化等、海事分野におけるAIの活用について幅広く議論されました。

 

ア 船舶設計へのAIの活用

①「AI Design」では、代替燃料、風力補助推進、バッテリー、廃熱回収等、設計時に考慮すべき要素が増える中、AIを活用して多数の設計案を比較し、最適な設計をより効率的に検討する取組が紹介されました。また、チャット形式で普段の言葉で指示するだけで、設計ソフトウェア上で構造部材の配置や配管経路の作成等を行う技術のほか、数千の船型案から運航条件に適した船型を探索する取組も紹介されました。いずれの取組でも、AIを設計者に代わるものとしてではなく、設計者がより多くの選択肢を検討するための支援手段として活用する方向性が示されていました。

 

イ 運航・自律化へのAIの活用

②「AI Operated Vessels」では、AIによる状況認識や機器の状態監視の取組に加え、海底作業用の無人潜水機を支援する船を無人化し、既に運用している事例が紹介されるなど、自律運航の実用化が進んでいることが示されました。また、海軍向けに無人艇を運用する企業からは、AIに運航そのものを任せるのではなく、陸上の遠隔運航センター(ROC)で監視に当たる人員の負担を軽減し、一人のオペレーターがより多くの船舶を監督できるようにするためにAIを活用しているとの説明がありました。

一方、自律運航の実用化に向けては、乗組員による船上での保守ができなくなるため、機器の信頼性向上が課題になるとの指摘がありました。

 

ウ 燃費削減・運航最適化へのAIの活用

③「AI to Save Fuel」では、センサーデータや運航データをAIで解析し、燃料消費の削減や運航の最適化に活用する取組が紹介されました。中でも、大規模言語モデル(LLM)を用いて船隊の運航実績評価の約6割を自動化し、結果の妥当性は専門家が確認しているという事例が示されました。また、船舶では常に安定した通信を確保できるとは限らないため、陸上のクラウドに依存するだけでなく、船内でデータを処理するエッジAIやLLMも重要になるとの指摘がありました。

 

エ AIの役割と信頼性の確保(各セッションに共通する論点)

多くの登壇者に共通していたのは、AIの役割を人の代替としてのみ捉えていない点です。設計案の比較・探索、船舶や機器の監視、運航データの解析等をAIに担わせることで、人がより重要な判断に集中できるようにすることが重視されていました。

一方、AIが答えを出せることと、その答えを安全上信頼できることは別の問題です。各セッションを通じて、もっともらしい誤った回答を示すハルシネーションや、判断の基となるデータの品質といった技術面の課題に加え、乗組員のいない船でAIの判断に誤りがあった場合に誰が責任を負うのかといった制度面の課題も挙げられました。こうした課題に対しては、AIの信頼性はモデル単体の性能だけで決まるものではなく、AIを組み込んだシステム、運用環境及びガバナンスを含めた設計全体で確保すべきものとの指摘がありました。また、信頼性の確認も一度の検証で終わらせず、運用を通じて継続的に行う必要があるとされました。

AIの判断を検証する手法自体がまだ確立していないことから、現時点では、特に安全に関わる事項や想定外の事態への対応について、人が最終判断を担う必要があるとの考えが示されました。さらに、将来的にAIに委ねる範囲が広がっても、人はAIが達成すべき目標と、その行動が許容される条件を定め、AIを監督する役割を担っていくとの見方が多く聞かれました。

このように、海事分野におけるAIの議論の焦点は、「AIを導入するか否か」ではなく、「どの業務をAIに担わせ、どこまで判断を委ね、その結果を誰がどのように保証するか」に置かれていました。

 

(2)海洋安全保障・防衛分野における新技術の実装と官民の連携

9月3日及び4日に開催された「Maritime Security & Defence」では、欧州の海洋における能力整備、海軍戦略と艦隊構成、海中インフラの防護、民間海運の強靱化、有人・無人システムの連携等をテーマとする複数のセッションが行われました。以下、このうちAI、無人システム及び海洋状況把握に関わる議論と、官民の連携に関する議論を中心に整理します。

 

ア 艦隊構成の変化とAI及び無人システムの活用

海軍戦略と艦隊構成の変化に関する議論では、高性能で高価な艦艇を少数保有するだけでは、ミサイルによる飽和攻撃や、ドローンによるスワーム攻撃に十分対応できず、装備の質だけでなく、量と多様性も確保する必要があるとの認識が示されました。このため、高性能な有人艦艇に多数の無人システムを組み合わせて運用する考え方が示され、有人艦艇を単なる戦闘単位ではなく、無人システムを運用し、意思決定を担う拠点(Operational Capability Hub)と位置付ける構想も紹介されました。

また、AIや自律化技術によって情報処理を迅速化して意思決定サイクルを短縮し、司令部との通信が途絶しても部隊が行動を継続できるようにする方向性が示されました。その上で、戦略的な判断は人が担い、戦術的な判断はAIを搭載した自律システムに委ねていく(Human above the Loop)との考え方が紹介されました。

 

イ 有人・無人システムの連携と実装の課題

有人・無人システムの連携に関する議論では、ウクライナが無人システムを用いてロシアの黒海艦隊に大きな損害を与えた戦訓を受けて、一部の領域では新たな技術に合わせて戦術を見直す段階に入ったとの見方が示される一方、欧州各国の海軍では具体的な運用方法がまだ固まっておらず、利用可能な技術も十分に活用されていない現状が報告されました。その要因としては、システムへの信頼、組織の文化や運用の基本方針、新たなシステムの導入に伴うリスクをどこまで受け入れるかといった点が挙げられ、完全な統合に向けては技術の成熟度や規制も課題とされました。

これに対しては、完璧な装備を待つのではなく、今ある技術をまず部隊で使い、使い手の意見を踏まえて改良を重ねるべきとの考えが示され、「6年後の100%の解決策より、今日の80%の解決策の方が多くの場合有効」との指摘もありました。そのため、変化の速い技術や暫定的な装備については、開発・調達を年単位ではなく月単位で進めるとともに、個々の任務での具体的な運用方法も装備を実際に使いながら固めていく必要があるとされました。また、こうした取組は海軍だけで進められるものではなく、産業界も海軍の実際のニーズを十分に理解し、緊密に連携していく必要があるとの意見も出されました。

 

ウ 海洋状況把握と官民の情報共有

欧州の安全保障環境と海洋における能力整備に関する議論では、EUの欧州対外行動庁(EEAS)から、海洋状況把握を安全保障上の基礎と位置付け、将来的には宇宙から海面を経て海底に至るまでの情報を統合し、監視能力を強化していく構想が説明されました。海運業界からは、こうした海洋状況把握を商船の安全確保にも生かすべきとの指摘がありました。紅海やホルムズ海峡等で商船が脅威にさらされる中、全ての商船を艦艇で護衛することはできないため、海軍、情報機関及び海運会社がそれぞれ持つ情報を集約し、どの海域にどの程度の危険があるかを迅速に伝え、危険海域を通航するか、待機するか、迂回するかを各社が適切に判断できるようにすべきとされました。ただし、こうした情報の提供は海軍による護衛に代わるものではなく、護衛の効果を高めるものと位置付けられていました。

また、海底ケーブル等の海中インフラの防護に関する議論では、衛星画像や商用データ等を統合することで、インフラを損傷させるおそれのある不審な船舶の動きを検知できるようになりつつあるとの説明がありました。その上で、今後は検知の技術そのものよりも、センサーを持つ事業者と対処の権限を持つ国家が連携し、検知した情報を迅速に届ける体制づくりが課題になるとの見方が示されました。

 

エ 攻撃や障害に強い民間海運の確保

攻撃や障害を受けても民間の海運・港湾の活動を継続できるようにすることをテーマとした議論では、バルト海で商船が錨を引きずり、海底ケーブルを損傷した事案のように、商船が重要インフラへの脅威となり得る一方、海運会社や港湾自体もサイバー攻撃等の標的となっていることが指摘されました。このように、民間海運の現場が、これまで主に海軍が担ってきた安全保障の現場にもなっているとの認識が示されました。

サイバー分野では、攻撃の目的が情報を盗むことから運航を妨げることへと移る中、海運会社や港湾はソフトウェア事業者、衛星サービス事業者、機器供給業者等に依存していることから、サプライチェーン全体でサイバーレジリエンスを確保する必要性が強調されました。シーレーンの防護は海軍が担うことができても、こうしたサプライチェーンの安全は産業界自らが確保するほかないとの指摘もありました。ウで述べた海運業界の指摘と同様、海軍による防護には限界があることを前提に、官民が連携しつつ、それぞれの役割を果たす必要性が示されたといえます。

 

オ 能力の統合とその条件(各セッションに共通する論点)

全体を通じて、現在の複合的な脅威には個々の艦艇や装備を増強するだけでは対応できないとの認識の下、有人艦艇と無人・自律システムを、センサー、データ及びAIによって結び付け、宇宙やサイバー空間も含めた複数の領域にまたがる一つの能力として機能させることが重視されていました。

一方、技術が存在することと、それを実際に利用可能な能力へと転換することは同じではありません。そのためには、まず技術面で、装備間の相互運用性や情報共有の仕組み、サイバーセキュリティといった基盤の整備が必要とされました。加えて、制度・組織・人の面でも、運用の基本方針や具体的な運用方法の策定、システムへの信頼の醸成や新たなシステムに伴うリスクの受け入れ、人材の育成を併せて進める必要があるとされました。

 

4 まとめ及び所感

(1)実装に向けた議論の進展

今回のSMMでは、AIや無人・自律システム等をめぐる議論が、技術的な可能性を論じる段階から、船舶設計、運航、安全保障及び防衛の分野でどのように実装するかを論じる段階へ移りつつあることがうかがえました。特に印象的であったのは、こうした実装に向けた取組が、民間海事分野と防衛分野の双方で進められていたことです。また、両分野に共通する課題として、技術の進歩に制度、調達、組織及び運用をいかに適応させ、実際に利用できる能力につなげていくかが示されました。

 

(2)民間海事分野と防衛分野の共通点と相違点

両分野は目的や運用環境が異なるものの、AI、無人システム、センサー、データ、通信、サイバーセキュリティ等、基礎となる技術には共通するものが多くあります。

一方、人とAIの役割分担については、人の関与を前提とする点は両分野に共通していましたが、力点には違いが見られました。民間海事分野では、AIの判断をどう検証し信頼性を確保するかに重点が置かれたのに対し、防衛分野では、速度と強靱性を確保するため、戦術的な判断はAIを搭載した自律システムに委ねていくべきとの意見も示されました。これは、民間海事分野では陸上からの監視や支援を前提とし、通信が不安定な場合への備えとして船上での処理を位置付けているのに対し、防衛分野では敵の妨害によって通信が途絶することを前提に、その状況でも自律的に行動できることが求められるという、想定する環境の違いを反映したものと考えられます。

このような違いはあるものの、共通する基礎技術をそれぞれ独立して発展させるのではなく、双方の技術や知見を相互に活用することは、技術開発を進める上で有効と考えます。

 

(3)民間と防衛の接点

こうした相互活用の中心となるのが、デュアルユース技術です。民間と防衛の双方に利用の場を広げることで、市場を通じて技術開発や製品化を促し、その成果を双方に還元していくことが期待できます。今回、SMMが「Naval Hall」を新設し、従来の海事産業の展示会に海洋安全保障・防衛分野を大きく取り込んだことは、こうした相互発展を促す試みとしても捉えることができます。SMM全体を通じて、欧州では、民間の海事産業も取り込みながら防衛産業基盤を強化しようとする動きが強まっていることがうかがえました。

また、SMMには造船、舶用機器、デジタル技術等の幅広い分野の企業が一堂に集まります。世界最大級の海事展示会が持つ既存の市場とネットワークの中に防衛分野を組み込むことで、通常であれば接点の少ない企業や技術を結び付けることができる点も興味深いと感じました。

さらに、カンファレンスでは、海洋状況把握における情報の共有、海底ケーブル等の海中インフラの防護、民間海運のサイバー対策等、海軍だけでは対応できず、民間の事業者と国家が役割を分担しながら連携しなければならない分野が多く取り上げられました。技術開発の面だけでなく、こうした運用の面でも、民間の海事活動と防衛の接点は今後一層広がっていくと考えます。

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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