欧州海上安全レポート

No.26-23「ISAR 2026 参加報告」
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2026年7月、マレーシア・クアラルンプールで開催された「第12回 International Search & Rescue Conference & Exhibition 2026(ISAR 2026)」に参加し、捜索救難(SAR)をめぐる新技術の活用や国際的な取組について調査してきました。

本イベントを通じて、新技術を導入するだけでなく、既存の船舶・航空機やRCC、人の判断、関係機関との連携に組み込み、実際のSAR能力へと転換する「能力統合」の重要性を感じました。

今後のSARでは、技術、人、組織を一体として機能させる統合的なアプローチが重要と考えられます。

 

《記事ポイント》

1.イベント概要

  • 2026年7月、マレーシア・クアラルンプールで開催
  • SARに関する国際会議・展示会
  • 20か国以上から軍、海上保安機関、RCC、企業等が参加

 

2.主な議論

  • AI、UAV、デジタルツール等によるSAR能力の高度化について議論
  • AIによる漂流予測・捜索計画、UAVによる捜索・物資投下等を紹介
  • 技術の高度化だけでなく、人の判断・責任や関係機関との連携の重要性も議論

 

3.ポイント

  • 新技術は、導入するだけでは実際に利用可能なSAR能力にならない
  • 新技術をSAR能力につなげるには、次の3つの「能力統合」が鍵
  •  ・ 既存のアセット、システムとの統合
  •  ・ 人の判断・責任との統合
  •  ・関係機関の能力の統合

 

 

《記事本文》

1.はじめに

「第12回 International Search & Rescue Conference & Exhibition 2026(ISAR 2026)」が2026年7月28日から30日までの間、マレーシア・クアラルンプールで開催されました。20か国以上から軍、海上保安機関、救助調整本部(RCC)、研究者、民間企業等が参加し、当方も出席しました。

本稿では、ISAR2026の概要、カンファレンスにおける主な議論及び所感について報告します。

同イベントのテーマは「次世代SAR:変化する世界がもたらす課題への対応」(Next-Gen SAR: Adapting to the Challenges of a Changing World)です。海上・航空SAR、潜水艦救難、大規模救助に加え、AI、UAV等の新技術活用まで、幅広い分野が取り上げられました。

海事分野では、船舶運航、航行安全、海洋監視、港湾、海上保安等のあらゆる領域でデジタル化が進んでいます。AI、UAV等の無人システム、衛星通信、各種センサー等の新技術も、実装段階に入りつつあります。

SARもこの進展の例外ではありません。今回の会議でも、新技術そのものの紹介にとどまらず、これらを既存のSAR体制の中でどのように活用し、実際の救助能力につなげるかが共通の論点となりました。

また、異常気象や大規模災害への対応、海上交通・洋上活動の拡大など、SARを取り巻く環境も変化しています。これに海賊、密輸、商船への攻撃、航法・通信妨害等の脅威が重なり、海上保安保障問題・不法行為・救難を明確に切り分けることが難しくなっています。こうした環境では、一つの機関が保有する船舶や航空機だけで対応することには限界があり、軍、沿岸警備、警察、消防、航空・海事当局、港湾、医療、災害管理機関、民間事業者等が有する能力を、必要に応じて組み合わせることが、より重要となります。

 

2.主な議論

(1)新技術によるSAR能力の拡張

今回の会議では、AI、UAV等の無人システム、衛星通信、各種センサー、デジタルツール等を活用し、SAR能力を拡張する様々な取組が紹介されました。

ポーランド海上捜索救助局のイェジ・キシチャク氏(Capt. Jerzy Kiszczak)は、AIによる漂流予測、捜索計画、救助アセットの配分、複数情報源の統合等を紹介しました。SAR調整担当者(以下「コーディネーター」)が扱うレーダー、AIS、気象・海象、海洋状況、通信、救助ユニット等の情報をAIによって統合・分析することで、状況認識や意思決定を支援するものです。

中国交通運輸部救助・サルベージ局のウェイ・シュオ機長(Capt. Wei Shuo)は、UAVによる救命胴衣、保温用品、医療物資等の先行投下、赤外線による夜間捜索、衛星通信による映像・情報伝送等を紹介しました。また、LiDARやAI画像認識等を活用し、固定翼機、ヘリコプター及び救助船を組み合わせて運用する将来像も示されました。

インド海軍の退役准将で、現在はインド海事財団の副会長であるアニル・ジャイ・シン氏(Cmde. Anil Jai Singh)は、潜水艦救難について、サイドスキャンソナー、合成開口ソナー、ROV(遠隔操作型無人潜水機)やAUV(自律型無人潜水機)等による水中捜索に加え、ロボティクスやAIを活用した状況認識・救難計画の高度化を紹介しました。

こうした事例からは、新技術によって、情報処理、広域・夜間捜索、水中捜索等、従来のSAR能力を拡張できる可能性が示されました。

 

(2)新技術導入後における人の判断と責任

複数の発表に共通していたのは、新技術を人の判断や責任に代わるものではなく、それを支援するものと位置付ける考え方です。

キシチャク氏は、AIが漂流予測、捜索計画、アセット配分等を支援できる一方、入力データが不完全又は不正確であれば、誤った提案につながるおそれがあると指摘しました。そのため、コーディネーター自身がAIによる提案の妥当性を確認する必要があり、最終的な判断は人が担うとの考えを示しました。

Global SAR Hubが紹介した「Clear 406」「SAR Chat」「SAR Drift」「SAR Manager」等のデジタルツールについても、アセットの派遣を自動的に決定するものではなく、コーディネーターの意思決定を支援するものと説明されました。

マレーシア海洋研究所(MIMA)の開会講演でも、AI、無人システム、衛星画像、予測モデル等は専門的判断を支援するものであり、人の説明責任や最終的な責任を置き換えるものではないとの考えが示されました。

このように、新技術の活用が進む中でも、人がその情報を確認し、最終的な判断と責任を担うという考え方が、複数の発表で共通して示されました。

(3)既存のアセット・システムとの統合

新技術を既存のアセットやシステムにどのように組み込むかも、会議を通じた重要な論点でした。

ウェイ・シュオ機長は、LiDAR等のセンサーをヘリコプターや救助艇に搭載して捜索能力を高めるとともに、AISや各種センサー等から得られる情報を統合し、捜索・救助活動に活用するための情報基盤の構築に言及しました。

香港政府飛行服務隊(Government Flying Service:GFS)は、UAVとヘリコプターが同じ任務に加わる場合には、飛行の安全を確保するため、両者の間で慎重な調整が必要になると指摘しました。

また、Global SAR Hubの質疑では、新たなソフトウェアをRCC等の既存の情報システムにどのように組み込むかが問われ、既存の枠組みを全面的に置き換えるのではなく、新たな機能を付加する形で活用すべきとの意見が示されました。

これらの議論から、新技術を単独で運用するのではなく、既存の船舶、航空機、RCC、通信・情報システム等の中にどのように組み込むかが、実装上の課題として示されました。

 

3.所感〜新技術導入から「能力統合」へ〜

(1)新技術を「利用可能な能力」に転換する

以上の議論を横断して見ると、次世代SARにおいて重要なのは、AIやUAV等の新技術を導入することだけではなく、それらを実際に利用可能な救助能力として機能させることであると考えられます。

今回の会議から、大きく三つの統合が必要であることが見えてきました。

第一は、新技術と既存のアセット・システムの統合です。UAV、AI、センサー、デジタルツール等を、既存の船舶、航空機、RCC、通信・情報システム等と接続し、一つの運用体系として機能させる必要があります。

第二は、新技術と人の判断・責任の統合です。AI等が情報処理や分析を支援する一方、その結果の妥当性を確認し、状況に応じて判断し、最終的な責任を担うのは人です。技術と人の役割を適切に組み合わせることが必要となります。

第三は、関係機関の能力の統合です。大規模又は遠隔海域におけるSARでは、一つの機関が保有する能力だけでは対応できない場合があります。船舶、航空機、UAV、衛星、センサー等のアセットに加え、国内外のRCC、軍、沿岸警備、航空・海事当局、医療機関、民間事業者等を、一つの救助活動の中で連携させる必要があります。

これら三つの統合を通じて、新技術を実際に利用可能なSAR能力へと転換することが重要です。すなわち、今後のSARに求められるのは、個々の新技術を追加する「技術導入」にとどまらず、新技術を既存のアセット・システム、人の判断・責任、関係機関との連携に組み込み、一つの救助能力として機能させる「能力統合」であると考えます。

 

(2)RCCに求められる能力統合機能

こうした能力統合において、RCCは中心的な役割を担います。

RCCには、個々のアセットを派遣するだけでなく、船舶、航空機、UAV、衛星、センサー、通信システム、人員、国内外の関係機関等を、事案に応じて一つの救助活動として組み合わせることが求められます。最も近いアセットが、必ずしも最適なアセットとは限りません。それぞれの長所、制約、到着時間、航続距離、夜間・荒天対応能力等を把握した上で、事案に応じた組合せを判断する必要があります。

潜水艦救難の発表は、この点を考える上でも示唆的でした。高性能な救難装置が存在していても、実際に現場で使用するためには、航空輸送、道路輸送、港湾搬入、クレーンによる積込み、適合船への搭載、現場までの航海等が必要です。発表では、理想的な条件下でも、救難システムが現場に到着するまでに約72時間を要するとされました。

これは、高性能な装備や新技術が存在することと、それを実際の救助活動で使用できることは同じではないことを示しています。他国・他機関からの支援を受け入れるための計画、標準作業手順(SOP)、連絡体制、共同訓練等を平時から整備し、必要なときに、それぞれの機関が持つ能力を実際に組み合わせて使える状態にしておくことが重要です。

 

(3)組織・分野を越えた連携

能力統合は、一つの機関や一つの専門分野だけでは実現できません。

AI・無人システムの技術者はSAR現場の運用上のニーズを、SAR実務者は新技術の能力と限界を、それぞれ理解する必要があります。また、実装には法制度、航空・海上交通、通信、サイバーセキュリティ、人材育成、調達、責任分担等が関係します。このため、技術、運用、制度、人材を横断して議論し、知恵と経験を持ち寄ることが不可欠です。

例えば、香港政府飛行服務隊(GFS)が紹介した遠距離海難救助の事例では、香港MRCC、航空管制、中国本土側の複数のRCC・救助機関、民間洋上施設等が連携しました。この事例からは、事前の合意、標準化された通信、引継ぎ手順、定期的な共同訓練、人的な信頼関係の重要性が示されました。

ISARは、個々の新技術を紹介するだけではなく、こうした異なる分野・組織の経験を共有し、様々な能力をどのように組み合わせるかを検討する場としても意義があると感じました。

 

(4)国際的な議論への参加

SARは、事案の規模や発生海域によっては、一国の能力だけでは対応できず、国境を越えた協力が必要となります。そのため、装備や技術だけでなく、各国・各機関が有する能力、連絡経路、支援の要請・受入手続、指揮関係等を平時から相互に理解し、知見を共有しておくことが重要です。

日本は、海上・航空SARや大規模災害対応等の実務経験を有しており、国際的な議論に提供できる知見があります。一方、今回の会議では、民間救助組織の活用、RCC間の連携、デジタルツール、AI・UAVの活用、SAR人材の育成や能力の標準化等、各国・機関による様々な取組が紹介されました。

こうした国際的な議論への参加は、日本の経験や知見を共有するとともに、各国の取組から得られた知見を国内の制度や運用に還元する機会でもあります。この双方向の知見共有に、ISARのような国際会議へ参加する意義があると考えます。

 

 

4 まとめ

ISAR 2026では、AI、UAV・AUV、衛星通信、各種センサー、デジタルツール等によって、SARにおける情報収集、捜索、分析、状況認識及び意思決定支援の能力を拡張できる可能性が示されました。

一方、新技術を導入するだけで、そのままSAR能力が向上するわけではありません。新技術を既存の船舶、航空機、RCC、通信・情報システム等と接続するとともに、技術による情報処理・分析と人による判断・責任を適切に組み合わせ流必要があります。さらに、国内外の関係機関が有する船舶、航空機、人員等の能力を、必要に応じて組み合わせて活用できる仕組みを整えることも重要です。

ISAR 2026を通じて、新技術を導入するだけではなく、それを既存のアセット・システム、人の判断・責任、関係機関との連携に組み込み、実際に利用可能なSAR能力へと転換する「能力統合」が重要であることが確認されました。

今後も、ISARのような国際的かつ分野横断的な議論の場に継続して参加し、日本の経験や知見を発信するとともに、各国の取組を国内の制度・運用に還元していくことが重要と考えます。

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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