欧州海上安全レポート
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2026年6月、オランダ・アムステルダムのRAI Amsterdamで開催された「Advanced Maritime Technology Expo & Conference」に参加し、欧州における先進海事技術の動向について調査してきました。
本イベントを通じて最も強く感じたのは、自動運航技術が、単独の商品・サービスとして市場を形成する段階ではなく、電動化・脱炭素化を基盤とする実需の中に組み込まれる形で実装が模索されているという点です。出展・講演の中心は船舶及び港湾の電動化・充電インフラ関連であり、自動運航技術を個別に評価するのではなく、電動化、港湾インフラ、物流効率化、規制・認証、金融等と結び付けて実装する統合的なアプローチの重要性が示されていました。
《記事ポイント》
1.イベントの概要
○ 2026年6月、オランダ・アムステルダムで開催の海事技術展示会・国際会議に参加
○ 従来別々だった「船の電動化」と「自動運航船」の展示会を統合したもの
2.現地の様子
- ○ 出展の大半はバッテリーや充電設備など「船と港の電動化」関連で、自動運航を看板に掲げる企業は少数
○ 会議は電動化、自動運航、港のインフラ、規制・金融の4テーマで構成され、脱炭素化を土台に他技術を組み合わせる方向性が示された
3.ポイント
○ 欧州ではEUの燃料規制を背景に、電動化への実需が生まれつつある
○ 自動運航技術は単独で商売になるというより、電動化や物流効率化と組み合わさって初めて実用価値を持つ段階
○ 電動化と自動化の接点を今後も追う価値が大きい、と結論
《記事本文》
1.はじめに
2026年6月、オランダのRAI Amsterdamにおいて「Advanced Maritime Technology Expo & Conference」が開催され、当方も参加しました。本稿では、同イベントの概要、展示・カンファレンスの内容及び所感について報告します。
同イベントは、従前同会場で開催されていた「Electric & Hybrid Marine Expo Europe」及び「Autonomous Ship Expo / Conference」を統合・再編したものであり、船舶の電動化、ハイブリッド化、脱炭素化、自動化・自律化、港湾インフラ、規制、金融等を幅広く扱う展示会及びカンファレンスとして位置付けられています。
開催経緯を見ると「Electric & Hybrid Marine」系イベントは、2014年頃からアムステルダムで開催されてきた船舶電動化・脱炭素化分野の専門イベントであり、電動推進、ハイブリッド推進、バッテリー、燃料電池、陸上給電、充電設備等を中心に扱ってきました。一方、「Autonomous Ship」系イベントは、2017年頃から自律運航船、遠隔運航、スマート船舶、航行自動化、センサー、通信、サイバーセキュリティ等を扱うイベントとして開催されてきました。
2026年からは、これらの既存イベントが「Advanced Maritime Technology Expo & Conference」として統合され、①電動化・ハイブリッド化、②自動化・自律化、③港湾・エネルギーインフラ、④規制・認証・金融の4つの柱を中心とする構成へと再編されました。RAI Amsterdamの案内でも、同イベントは、これらの分野を相互に関連するテーマとして扱う、包括的なB2B展示会(Business to Business、企業・組織向けの商談型展示会)・カンファレンスと説明されています。
この再編は、単に「Autonomous Ship Expo」が改名されたというよりも、従来は比較的独立して扱われていた「電動化」と「自律運航」を、より広い「先進海事技術」の枠組みの中に統合したものと考えられます。公式案内でも、2026年は旧「Electric & Hybrid Marine Conference」と旧「Autonomous Ship Conference」の構成が発展し、4つの専門ストリームを備えた将来志向のイベントへ移行すると説明されています。
この背景には、船舶の先進技術が、個別技術ごとに発展する段階から、電動化、脱炭素化、港湾インフラ、自動化、規制・認証、投資判断等が一体となって実装される段階へ移行していることがあると考えられます。特に、電動化やGHG対策については、制度的要請や港湾インフラ整備と結び付き、実際の市場形成が進みつつあります。一方、自動化・自律化技術については、単独分野としてではなく、電動化、港湾物流、運航効率化等と組み合わせて実装される方向にあるものと見られます。
2.展示会の様子
今回の展示会では、名称上はAdvanced Maritime Technologyとして対象分野が広く設定されていましたが、実際の出展内容は、バッテリー、モーター、電動推進、港湾電気設備、陸上給電設備等、船舶及び港湾の電動化・脱炭素化関連が中心でした。
公式リスト上で確認できた出展企業は約100社であり、ABB、Corvus Energy、Echandia、EST-Floattech、EVE Energy、Volvo Penta、Wärtsilä、Zinus、Cavotec、CharIN等、電動推進、バッテリー、燃料電池、充電、港湾電力設備、推進システム関連の企業が多数見られました。
出展の中心は、電動推進、バッテリー、エネルギー貯蔵、燃料電池、充電システム、港湾電力設備、電力制御、ケーブル、インバーター等でした。概括的には、船舶・港湾の電動化又はエネルギー関連企業が多く、次いで推進システム、電力制御、港湾インフラ関連が目立った一方、自律運航・MASSを前面に掲げる企業は相対的に限定的であったと整理できます。
また、出展者からも、バッテリーメーカー、システムインテグレーター、港湾関係者との接点、電動化サプライチェーンとの連携等が強調されており、船舶及び港湾の電動化を中心とした実装志向のイベントであることがうかがえます。
来場者層については、公式サイトが、造船所、船主、フェリー事業者、商船運航者、海軍・軍関係者、沿岸警備機関、港湾関係者・港湾管理者、システムインテグレーター、サステナビリティ・コンサルタント、造船設計者、ターミナル事業者等を対象としていると説明しています。また、公式サイトに掲載された来場者データでは、85%が単独もしくは共同の購買権限を持つか、購買に影響力を有するとされており、一般来場者向けではなく、技術導入や調達判断に関わる専門的な来場者を対象としたイベントであることが確認できます。
以上を踏まえると、今回の展示会は、大規模な総合海事展示会というよりも、船舶電動化、港湾電動化、充電インフラ、エネルギーマネジメント等に関心を有する事業者、技術提供者、港湾関係者等が集まる、テーマ性の明確な企業・組織向けの専門展示会であったと整理できます。
3.カンファレンスの概要
カンファレンスは会場内3か所で同時並行して開催されていたため、当方が聴講できた範囲には限りがありました。本項では、イベント全体の主題を踏まえつつ、当方が関心事項に照らして選定・参加したセッションに基づき、主要な論点を整理します。
本カンファレンスも、展示会と同様に、前述の4つの柱を中心に構成されていました。実際に参加したセッションでは、船舶電動化、バッテリー安全、充電システム、港湾電動化、MASS、自律運航システム、安全評価、推進システム統合、AI活用、米国の自律海事政策等に関する発表が行われました。
全体としては、「自動化・自律化」を単独の技術分野として扱うというよりも、欧州市場で実需が形成されつつある電動化・脱炭素化を基盤とし、その上に自動化・自律化、港湾インフラ、規制・認証・金融を組み合わせる方向性が示されていました。
第一の柱である「電動化・ハイブリッド化」では、船舶電動化、バッテリー、充電システム、ゼロエミッション船舶等が中心的に扱われました。実際の発表では、LFPベースの全固体電池、メガワット充電システム、バッテリー推進型大型Ro-Pax船、電動無人内航船等が取り上げられました。また、バッテリー火災、熱暴走、換気、消火、現場消防との連携等、電動化の進展に伴う安全上の課題も具体的に扱われました。
第二の柱である「自動化・自律化」では、MASS、自律運航システム、遠隔運航、オフショア自動化等が取り上げられました。IMO MASSコードに関するセッションでは、MASSコードの位置付け、経験蓄積期間、旗国を通じた運用経験の共有、将来的な義務的コード化の可能性等が説明されました。また、オフショア分野では、完全自律運航ではなく、DP制御、遠隔機器監視、状態基準保全、センサー支援、遠隔操作センター等を含む段階的な自動化が進んでいることが示されました。MASS・USV認証に関しては、ConOps、安全評価、実船試験、シミュレーション活用等の重要性が指摘されました。
第三の柱である「港湾・エネルギーインフラ」では、港湾電動化、OPS、急速充電設備、港湾内BESS、スマートグリッド、港湾物流自動化等が扱われました。カンファレンスでは、船舶の電動化が進むほど、港湾側の大容量電力供給、充電インフラ、保守体制、エネルギーマネジメントが重要になることが示されました。また、ロッテルダム港における自律型電動バージを用いた「Kiss and Ride」物流コンセプトも紹介され、港湾内物流の効率化、自動係留、自律離着桟、位置決め制御等が議論されました。
第四の柱である「規制・認証・金融」では、規制、認証、責任関係、投資、保険、政策支援等が横断的に扱われました。MASSコードの経験蓄積期間、船級協会による認証、AI・ソフトウェアの更新管理、事故時の責任分担等は、自律運航船の実装に向けた制度的課題として議論されました。また、米国2026年海事行動計画に関する発表では、自律・遠隔操作技術が国家競争力及び安全保障の観点から位置付けられている一方、商業利用には既存規制、乗組員要件、ROC所在地、オペレーター資格、輸出規制等の整理が不可欠であることが説明されました。
さらに、電動船の経済性に関する発表では、投資回収や資金調達の具体策が議論されました。例えば、FuelEU Maritimeのプーリング制度(規制目標を超過達成した電動船が、その余剰分を未達の船に売却できる仕組み)や、船載バッテリーを収益源として事業化する「Battery as a Business」モデル等が紹介されました。
※当事務所レポート「26-04-1. EU港湾戦略およびEU海事産業戦略を公表」参照
なお、AIに関する議論は、これら4つの柱を横断するテーマとして位置付けられます。クロージング・パネルでは、AIは人間の判断を代替するものではなく、設計、検証、運航、物流最適化を支援するツールとして活用すべきとの見方が示されました。他方で、ソフトウェアは継続的に更新されるため、船級認証、更新管理、責任分担、規制フレームワークの整備が今後の重要課題になるとされました。
4.まとめ・所感
本展示会及びカンファレンスの内容を見る限り、欧州の海事技術ビジネスでは、GHG対策を背景に、船舶電動化、港湾電動化、充電インフラ、エネルギーマネジメント等が重要なテーマとして扱われており、これらの分野で実装に向けた関心が高まっていることがうかがわれました。
欧州では、FuelEU Maritimeにより、EU・EEA域内の港に寄港する一定規模以上の船舶に対し、使用する燃料・エネルギーの温室効果ガス排出強度を段階的に引き下げることが求められています。そのため、船社や港湾関係者においては、低炭素燃料、陸上電力供給、充電設備、エネルギーマネジメント等への対応が必要となっており、これが船舶電動化や港湾電動化に関する市場需要を後押ししていると考えられます。
一方、Autonomous技術については、技術開発や実証が進む中で、単独の商品・サービスとして展開されるよりも、電動化、港湾電動化、物流効率化、省人化、エネルギーマネジメント等と結び付くことで実用的な価値を持つ方向にあると見られました。すなわち、今回の展示会は、MASS・Autonomousの単独拡大を示す場というよりも、電動化・脱炭素化を中心とする流れの中で、Autonomous技術の実装可能性が模索されている状況を示すものであったと整理できます。
この点で、本イベントへの参加は有益でした。単にAutonomous関連技術の最新動向を把握するだけでなく、欧州の海事分野全体の中で、自動運航技術がどのように扱われ、電動化・脱炭素化・港湾インフラ・物流効率化の流れの中でどの程度実装段階に近づいているのかを確認する機会となりました。
特に、本イベントは、自動運航技術を専門的に扱うイベントとは異なり、バッテリー、電動推進、港湾電動化、GHG対策、充電インフラ等の実需に近い分野との関係の中で、自動運航技術の位置付けを把握できる点に特徴があります。自動運航技術は、船舶運航の効率化、省人化、エネルギーマネジメント、港湾物流の最適化を支える技術要素として位置付けられており、電動化・脱炭素化と組み合わされることで、より具体的な実装価値を持つものと考えられます。
以上を踏まえると、本イベントは、欧州における先進海事技術の実装動向、特に電動化・脱炭素化と自動化・自律化の接点を継続的に把握する上で有益な機会でした。当方としては、今後も必要に応じて参加し、欧州海事市場における技術実装の方向性を継続的に確認していく意義は大きいと考えます。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
- No.26-16「旧 Autonomous Ship Expo 参加報告」
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- No.26-02「月刊レポート(2026年2月号)」
- No.26-01「月刊レポート(2026年1月号)」
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- No.25-11「月刊レポート(2025年12月号)」
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