欧州海上安全レポート
26-15-3. EUの不法移民対策
6月中旬、EUでは不法移民対策及び送還制度の実効性強化に関する動きが相次ぎました。背景には、6月12日にEUの新たな移民・庇護協定(Pact on Migration and Asylum)の適用が開始されたことがあります。同協定は、外部国境での入域審査、庇護手続、加盟国間の責任分担、危機対応、送還手続を一体的に整備する包括的枠組みであり、EUの移民・庇護政策を新段階に移行させるものです。欧州委員会は、同協定をEU共通の移民管理制度の基盤と位置付けています。[3-1]
この制度改革を背景として、欧州委員会は6月16日「Channel Migratory Route」に関するEU行動計画を公表しました。同計画は、フランス北部などから英国へ向かう小型ボートによる危険な海上渡航を対象とするものであり、英仏海峡問題をフランス等の沿岸国だけでなく、EU全体の移民管理上の課題として扱う点に特徴があります。具体的には、密航ネットワークの摘発、小型ボート・エンジン等の供給網対策、沿岸部での監視・国境管理、Frontex及びEuropolによる支援、出身国・通過国との協力、英国との情報共有・実務協力を多角的に講じ、危険な小型ボート渡航の抑止と密航ネットワークの解体を図る内容です。これは、海上での出航阻止にとどまらず、密航組織、移動ルート、国境管理、送還協力を一体的に管理しようとする「whole-of-route」型の対応といえます。[3-2]
また、送還制度そのものについても見直しが進められています。6月11日、EU理事会は不法滞在第三国人の送還に関する法案の暫定合意文書を更新し、6月17日には欧州議会が同規則案を承認しました。同案には、送還を実効化するための仕組みが盛り込まれています。第一に、退去を命じられた不法滞在者には、自らの送還手続を進めるために当局へ協力する義務が課されます。第二に、本人が協力しない、逃亡のおそれがある、又は安全上のリスクがあるといった場合には、個別の審査を経て、行政当局又は司法当局の命令により拘禁することができます。第三に、その拘禁期間の上限は最大24か月とされ、従来より長期化されました(状況の変化等があれば合計で最大6か月の延長も可能です)。第四に、第三国に設置される「return hubs(リターン・ハブ)」の利用可能性が認められます。return hubsは、EU域内に滞在権のない者を、受け入れに合意した第三国へ移送し、最終的な帰国又は別の第三国への移送を進めるための仕組みであり、人権・国際法・ノン・ルフールマン原則を尊重する第三国との協定に基づく場合に限られます。[3-3]
今回の一連の動きは、英仏海峡の小型ボート問題への個別対策にとどまりません。EUは、移民・庇護協定の適用開始を契機として、「入域管理」「庇護審査」「密航対策」「送還」を連動させ、移民管理制度全体の実効性を高めようとしています。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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