欧州海上安全レポート
26-15-2. 英国の船員保護強化
6月17日、英国海事沿岸警備庁(MCA)は、Maritime Labour Convention, 2006(MLC 2006)の2022年改正実施に関するMGN 706 (M) Amendment 1(MGNは海事ガイダンス通知。(M)は商船向け、Amendment 1は第1改訂版を示す)を公表しました。MLC 2006は、国際労働機関(ILO)が採択した船員の労働・生活条件に関する国際条約であり、英国はその締約国として、ILOで採択された改正内容を国内制度及び海事行政の実務に反映する立場にあります。したがって、今回のMGNは、英国独自の新基準というより、MLC 2022年改正を英国の船主、船舶、船員、募集・配置サービス等に適用するための実務指針と位置付けられます。
MLC 2022年改正は、COVID-19期に顕在化した船員交代の停滞、長期乗船、孤立、送還遅延等の課題を踏まえ、船員の労働・生活条件を改善することを目的としています。改正内容は、船員募集・配置、送還、船内の社会的つながり、食料及び飲料水、医療、船内安全衛生等に及びます。特に、船員が乗船中に家族等と連絡を取る手段の確保、十分な食料及び飲料水の無償提供、緊急医療を要する船員の速やかな下船及び陸上医療へのアクセス確保などが重視されています。[2-1]
また、同日公表されたMGN 475 (M) Amendment 2は、MLC 2006に基づく船員募集・配置サービスに関する実務要件を示すものです。同通知では、募集・配置サービス又は船主が義務を履行しない場合に備えた保護制度について、船員に対し、雇用前又は契約手続中に説明することが求められています。これは、船員が賃金未払、雇用不履行、送還遅延等に直面した場合に、自らの権利や補償手段を事前に理解できるようにするための措置です。[2-2] [2-3]
本件は、ホルムズ海峡等における船舶拿捕や船員留置といった安全保障上の事案を直接対象とするものではありません。しかし、船員が不測の事態により予定どおり下船・帰国できない場合、長期乗船を余儀なくされる場合、又は契約上の不利益を受ける場合に備え、送還、医療、通信、補償、権利説明といった基礎的な保護を強化する内容です。このため、ホルムズ海峡情勢を契機とした措置とまではいえないものの、船員留置等を含む不測の事態にも間接的に対応し得る制度的備えとして評価できます。
以上を踏まえると、今回のMCA通知は、MLC 2022年改正を英国国内で実施するための具体的措置であり、船員の権利保護を平時・有事を問わず強化する動きと位置付けられます。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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