欧州海上安全レポート

No.26-10「特集 欧州ドローン規制と運用実態」
No.26-10_1 記事

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欧州ドローン規制と運用実態 〜軍事から民間利用まで〜

《記事概要》

EUのドローン規制・政策を概観し、日本制度との比較を通じて制度上の特徴を整理します。あわせて、EMSA、Frontex及びEFCAにおける運用実態並びにTEKEVER等の欧州関連企業の動向を取り上げ、欧州におけるドローンの規制、運用及び産業動向を把握します。

 

第1章 EUドローン規制

  • EUでは共通規則の下、ドローンの運用、認証、操縦者等に関する制度を整備
  • 「欧州ドローン戦略0」及び「ドローン及び対ドローンセキュリティ行動計画」により産業振興と安全保障上の対応を補完

 

第2章 日・EUのドローン規制比較

  • EUは、比較的一元的な共通規則体系を有する制度構造
  • 日本は、航空法、小型無人機等飛行禁止法、電波法等を複数省庁が分担する制度構造

 

第3章 EU海上保安機関でのドローン運用

  • EMSA、FRONTEX、EFCAが、海上監視、国境管理、漁業監視等にドローンを活用
  • ドローンは、船舶、航空機、衛星、沿岸レーダー等の既存の監視・取締り手段を補完

 

第4章 欧州ドローン関連企業動向

  • ポルトガルTEKEVER等の企業概要、当該会社製品の導入事例を確認
  • ドローン産業は、機体製造、AI、センサー、通信、データ処理、運用支援を含む一体サービスを提供

 

《記事本文》 

はじめに

 

近年、ドローンに関する報道に接する機会が急速に増えています。無人航空機、すなわちUAV又は一般にドローンと呼ばれる技術は、歴史的には軍事目的の無人機、標的機、偵察機として発展してきましたが、現在では民間分野にも広く浸透しており、その重要性は一段と高まっています。

 

軍事・安全保障分野では、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢に見られるように、ドローンは、偵察、監視、目標捕捉、攻撃、重要インフラに対する威嚇・妨害といった多様な用途に用いられ、現代の武力紛争において重要な手段の一つとなっています。一方、民間分野においても、航空監視、インフラ点検、災害対応、輸送・物流、環境監視などに活用されており、その利用範囲は着実に拡大しています。

 

このように、ドローンの多様な利用形態は、利用目的や運用場面を異にしつつも、機体、センサー、通信、AI、指揮統制・運航管理、データ処理、製造基盤、人材といった共通の技術・産業基盤の上に成り立っています。すなわち、ドローンは、軍事・安全保障分野での利用を一つの典型としつつも、平時の民間利用から災害・危機対応、治安・国境管理、有事における防衛利用に至るまで、状況に応じて連続的に活用され得る基盤的技術であり、もはや防衛分野だけの技術でも、民間利用だけを前提とする技術でもありません。

 

このため、今後のドローン政策を考える上では、研究開発・製造、調達、運用、人材育成、データ連携・共有、規制、対ドローン対応能力に至る一連の要素を、一体的に捉える視点が重要となります。ドローンは、利便性と経済的価値をもたらす一方で、空港、港湾、エネルギー施設、通信施設、国境地帯などに対する不正な監視、妨害、威嚇又は攻撃にも用いられ得ます。このような二面性を踏まえると、今後の政策・規制枠組みを検討する際には、技術革新や産業育成を過度に阻害しない柔軟性と、悪用・誤用に対応する実効性をいかに両立させるかが、重要な論点となります。

 

こうした問題意識は、欧州の政策動向にも顕著に表れています。EUは、ドローンの民間利用の拡大と市場形成を進める一方で、外部国境管理、重要インフラ防護、治安対策、対ドローン対応能力の強化にも取り組んでいます。海上分野においても、ドローンは、沿岸警備、海上監視、漁業取締り、海洋汚染監視、密輸・不法移民対策、捜索救助、港湾・海上重要インフラの保護などに活用されており、既存の船舶、航空機、衛星、沿岸レーダー等を補完する手段として、その重要性を増しています。

 

本報告書は、こうした情勢変化を踏まえ、欧州におけるドローンの規制、運用及び産業動向を調査し整理するものです。具体的には、EUレベルの規制・政策を概観した上で、日本制度との比較考察を通じて、規制主体、法令構造及び行政上の所管の違いを確認します。さらに、EMSA、Frontex及びEFCAにおけるドローン活用の実態を整理します。あわせて、ポルトガルを中心とする関連企業及びその製品・サービスの事例を取り上げ、ドローン技術が民間利用、防衛・治安分野、海上監視等の複数領域にまたがって展開されている実態を把握します。

 

 

第1章 EUにおけるUAVの規制環境

 

1.1 EUの法的枠組み

 

(1)規制主体:EASA

EUにおいては、欧州航空安全機関(EASA)が、各国の航空当局と緊密に連携しつつ、民間航空の安全および規則制定を主に担当する機関です[1-1]。EASAの任務は、主に標準化、認証、規制、監視に関連しています。 EASAは、民間航空安全分野における共通規則に関する規則2018/1139(EU)に基づき、民間航空を規制する権限を有しています[1-2]。2018年の改正により、EASAの権限は機体の大きさを問わず民間ドローン全般に拡大されました。これにより、従来から有人航空機に適用されてきた認証・整備・操縦士免許・運航といった規律事項のすべてが、ドローンにも及ぶこととなりました[1-3]

 

(2)U-Space空域と権限分担

EUでは、既存の空域構造に民間ドローンを統合するため、欧州委員会実施規則(EU)2021/664に基づき、「U-Space」に関する規制枠組みが整備されています。一方で、具体的なU-Space空域の指定は加盟国の権限に属しており、EUレベルの共通枠組みと加盟国による空域指定という二層構造が採られています。この役割分担は、自国領空の使用が国家主権の中核をなす事項であり、主権国家の連合体であるEUの制度的性格上、加盟国の権限として留保される必要があることに由来します。

 

(3)立法の全体像

ドローンに加え、地上管制や通信リンクなどの支援システムを含む無人航空機システム(UAS)に特に適用される法規制としては、2019年の関連規則及び2024年の関連規則群が中心的な役割を果たしています。2019年の関連規則はUASの運航と認証の基本枠組みを定め、2024年の関連規則群はその枠組みを拡張し、認証対象となるUASや有人VTOL機を含む革新的航空モビリティ(IAM)に関する要件を整備するものです。2024年規則群の主要部分は、2025年5月1日から適用されています。

 

(4)2019年関連規則

2019年の関連規則は、以下の2つの法的措置で構成されています。

  • 欧州委員会実施規則(EU)2019/947は、UASの運用に関する要件および手続き(例:運航者登録、遠隔操縦士の能力、運用リスク評価など)を定めています[1-4]。これは、EU域内におけるUASの安全な運用のための基本的な枠組みを規定するものです。本規則は2020年12月31日に適用開始となりました。
  • 欧州委員会委任規則(EU)2019/945は、技術的認証要件(設計、製造、整備など)および第三国での運航について規定しています[1-5]。これは、UASおよびその遠隔操縦者に対する認証要件に関するものです。同規則は2019年7月1日に適用開始されました。

 

(5)2024年関連規則

2024年4月に採択された別の関連規則は、ドローンおよび垂直離着陸(VTOL)機を対象とし、革新的な航空モビリティ(IAM)の開始に向けた最終規則を定めています[1-6]。本関連規則の対象範囲は広く、二つの方向に及んでいます。第一に、有人電気エアタクシー(空飛ぶクルマ)については、有人航空の根幹をなす4分野——運航ルール(Air OPS)、操縦士免許(FCL)、空中操縦の共通規則(SERA)、航空交通管理(ATM)——のすべてにわたる包括的な要件を定めています。第二に、無人ドローンについては、機体認証および整備に関する基準と手続きを定めています。

このドローンに関する関連規則は、以下の関連要素で構成されています。

  • 欧州委員会委任規則(EU)2024/1107:認証済み無人航空機システムおよびその構成部品の継続的耐空性、ならびにこれらの業務に携わる組織および要員の承認に関する詳細な規則を定めています[1-7]
  • 欧州委員会委任規則(EU)2024/1108は、認証対象となる無人航空機システムの初期耐空性、および無人航空機システムならびに第三国の無人航空機システム運航者に関する規則を定めています[1-8]
  • 欧州委員会実施規則(EU)2024/1109には、認証済み無人航空機システムの継続的耐空性に関する認証、監督および執行のための、所管当局の要件および行政手続きに関する規則が含まれています[1-9]
  • 欧州委員会実施規則(EU)2024/1110は、認証対象となる無人航空機システムの初期耐空性に関する規則、ならびに無人航空機の運航に関する規則および手続を定めています[1-10]
  • 欧州委員会実施規則(EU)2024/1111:垂直離着陸能力を有する有人航空機の運航に関する要件を定めています[1-11]。本規則は有人eVTOL航空機を対象とし、当該eVTOLの耐空性、運航、およびパイロット免許に関する既存のすべての規則に対する解釈、補足、および改正を規定しています。

 

1.2 補完的な政策文書

 

(1)政策文書の全体像

拘束力のある法規制に加え、欧州委員会は2つの政策文書(法的拘束力を持たないが、政策方針を示すもの)を打ち出しています[1-12][1-14]。「欧州ドローン戦略2.0」は産業振興・市場創出の側面に主眼を置き、ドローン市場の立ち上げを目指すものであるのに対し、「ドローンおよび対ドローンセキュリティに関する行動計画」は悪意のあるドローンがもたらす脅威への対処を目的としています。前者が産業政策的な性格、後者が安全保障政策的な性格を持つという点で、両文書は補完関係にあります。

 

(2)欧州ドローン戦略2.0

 「欧州ドローン戦略2.0」は、規制面にも言及しつつ、欧州でドローンが商売として成り立つ環境をどう作るか、市場をどう大きくするかという、産業振興・市場創出の側面に主眼を置いています[1-12]。同戦略は、欧州における民間ドローンのリードマーケットの創出を目指しており、欧州委員会によれば「世界で最も先進的」とされる採択済みの包括的な規則群が、ドローン市場の立ち上げに寄与すると主張しています[1-13]。また、この戦略では、2030年までに緊急対応、測量、画像撮影、点検、監視といった業務がドローンによって日常的に行われるようになることを想定しています。戦略にはいくつかの主要な取り組みが含まれており、その中には「遠隔操縦士およびVTOL機操縦士に対する新たな訓練および能力要件」や、「対ドローン対策パッケージ」などが挙げられます。

 

(3)対ドローンセキュリティ行動計画

 ① 概要と4つの優先事項

2026年2月に採択された「ドローンおよび対ドローンセキュリティに関する行動計画」は、悪意のあるドローンがもたらす脅威に対するEU共通のアプローチを提示することを目的としています[1-14][1-15]。本行動計画の主眼は、空港・発電所・政府施設などの重要インフラの防護、陸海の国境警備、公共イベントや都市部における市民の安全確保といった、警察や国境警備機関が担う民生分野の治安維持(域内安全保障)に置かれています。 一方で、本行動計画は防衛分野も支援し、民間と軍事の応用分野間の相乗効果(デュアルユース)を促進することも意図しています。 本行動計画は、次の4つの優先事項を中心に構成されています。(1) ドローン事案(不審ドローンの侵入、墜落、攻撃など対処を要する出来事の総称)への備えと対応力の確保、(2) 不審ドローンの探知、(3) 関係機関の連携による事案対処、(4) ドローンの脅威に対する欧州の防衛態勢の強化。

 

 ② 対ドローン配備イニシアティブ

優先事項「(3) 関係機関の連携による事案対処」には注目すべき要素が含まれています。本行動計画は、事案への対処が主に加盟国の権限であることを強調しつつも、欧州委員会自身に対して具体的な行動指針をいくつか提示しています[1-14]。その一つが、重要インフラおよびEUの対外国境を保護するための「対ドローン配備イニシアティブ」であり、陸上および海上の国境監視に2億5,000万ユーロを投じることが盛り込まれています。あわせて欧州委員会は、フロンテックス(Frontex:欧州国境沿岸警備機関)による国境監視へのドローン活用を後押しするため、共同作戦の実施、ドローン操縦士および対ドローン要員の派遣、新技術の実証といった面での支援を行う計画です。

 

民軍融合とデュアルユース

優先事項「(4) ドローンの脅威に対する欧州の防衛態勢の強化」では、民間部門で発展したドローン技術・対ドローン技術を軍事的能力構築に活用する方向性が示されており、ホライゾン・ヨーロッパ(Horizon Europe)、欧州防衛基金(EDF)、欧州防衛産業計画(EDIP)、SAFEローンといった既存の資金スキームを通じた民軍協力の強化、民軍産業マッピングの実施、対ドローンシステムの認証スキーム整備、欧州ドローン防衛イニシアティブおよび東部側面警戒(Eastern Flank Watch)構想の基盤形成、ウクライナとの「ドローン同盟(Drone Alliance with Ukraine)」を通じた次世代ドローンの産業エコシステム構築などが想定されています[1-14][1-15]

 

今後の立法見通し

本行動計画では、ドローンに関する今後の立法措置に向けた取り組みも発表されています[1-14][1-15]。第一に、欧州委員会は今年後半、民間ドローンの識別および登録を改善するための「ドローン・セキュリティ・パッケージ」を提示する予定です。第二に、欧州委員会はEUレベルでの対ドローン規制枠組みの実現可能性調査を開始する計画です。 

 

第2章 日本におけるUAVの規制環境とEUとの比較整理

 

2.1 日本の法的枠組み

 

日本においては、EUのような単一の包括的規則体系ではなく、複数の所管省庁が個別法令を分担する分散型の制度設計がとられています。中核となるのは、国土交通省所管の「航空法」(2015年改正によりドローン規制を導入、以後累次改正)であり、これに警察庁所管の「小型無人機等飛行禁止法」、防衛省告示による対象防衛関係施設の指定、総務省所管の「電波法」、その他「民法」「道路交通法」「個人情報保護法」「自治体条例」が重層的に関係します[2-1][2-2][2-4][2-14]。なお、対象施設周辺地域が海域に及ぶ場合には、小型無人機等飛行禁止法に基づく通報手続において、管区海上保安本部長が関係する場合があります。 航空法は、機体重量100g以上の無人航空機を対象とし、機体登録(リモートID搭載義務)、特定飛行に係る許可・承認、操縦者の国家資格(2022年12月創設の一等・二等無人航空機操縦士)、機体認証制度などを定めています[2-6][2-15]。飛行カテゴリーは、立入管理措置の有無や有人地帯での目視外飛行(レベル4)の可否によって区分され、2024年には有人地帯外での運用要件を緩和する「レベル3.5飛行」が新設されました[2-5]

 

2.2 EU制度との比較

 

(1)規制主体:権限分担

EUでは、EASAが加盟国当局と連携しつつ、民間航空安全に関する共通規則の策定・実施を支える中心的機関として位置付けられています。UASについても、運航、認証、操縦者、耐空性等に関するEU共通枠組みの中で制度整備が進められています。これに対し日本では、民生分野は国土交通省航空局、重要施設防護は警察庁、防衛施設は防衛省、電波利用は総務省と所管が分かれており、運用者は複数法令の重畳的適用を確認する必要があります[2-1][2-2][2-4][2-14]。EU型の比較的統合された枠組みと比べると、日本の制度は縦割りの弊害が生じやすい一方、各分野の専門性に即した個別判断が可能という特徴を持ちます。

 

(2)立法形式と統合度

EUは、2019年関連規則(運航規則・認証規則)および2024年関連規則(継続的耐空性、初期耐空性、有人VTOL運航等の5本の規則からなる)により、ドローンと有人eVTOLを含む革新的航空モビリティ(IAM)を一体的に規律する統合的枠組みを構築しています。日本は航空法の累次改正によって段階的に対応しており、空飛ぶクルマ(有人eVTOL)については2025年大阪・関西万博を見据えた個別の運航・型式認証ルール整備が進められているものの、EU 2024/1111のような有人eVTOL専用の包括的規則は未制定です。

 

(3)空域類型と運航管理

EUは「U-Space空域」という新たな空域類型を導入し、多数機同時運航や自動運航ドローンを既存空域に統合するための共通基盤を整備しつつあります(空域指定自体は加盟国権限)。日本でも2025年3月に「無人航空機の多数機同時運航ガイドライン」が制定され、操縦者1人に対し最大5機までの同時運航を可能とする運用が始まっていますが[2-5]、EUのU-Spaceに相当する制度的空域区分(動的な低高度空域管理、リモートID常時参照、自動衝突回避等)の本格的整備はこれからの課題です。

 

(4)重要施設防護と対ドローン規制

EUの「ドローンおよび対ドローンセキュリティに関する行動計画」(2026年2月採択)は、重要インフラ・国境警備・市民保護を包括する民生分野の治安維持を主眼とし、対ドローン配備イニシアティブに2億5,000万ユーロを充てるなど、EU共通の対処枠組み構築を志向しています。日本の小型無人機等飛行禁止法は、国会議事堂・内閣総理大臣官邸・皇居・空港・原子力発電所・防衛関係施設等を対象とし、現行は周辺おおむね300mを飛行禁止区域としています[2-2][2-3][2-4]。2026年3月、政府は同法改正案を閣議決定し、規制範囲を概ね1,000mに拡大するとともに、警察官の命令を経ずとも罰則を科せる方向で見直しを進めています[2-5][2-7]。すなわち、日本もEUと同様にドローンの脅威性能の向上を踏まえた規制強化局面にありますが、EUのような域内共通の対ドローン枠組みではなく、自国の重要施設防護に絞った国内法強化として進められている点に違いがあります。

 

(5)産業政策と市場創出

EUは「欧州ドローン戦略2.0」により、ドローン関連サービスが事業として成立する環境を整備し、市場を拡大するという、産業振興・市場創出の側面に重点を置き、リードマーケット創出を目指しています。日本も「空の産業革命に向けたロードマップ」のもとレベル4飛行解禁(2022年)、国家資格化、機体認証制度の整備など制度面の環境整備を進めており[2-6][2-15]、近年は防衛分野での無人アセット活用(SHIELD構想、令和8年度予算で約3,128億円計上)[2-10][2-13]や国産ドローンの生産基盤整備が安全保障関連3文書改定の論点となっています[2-8]。EUが民生分野での市場立ち上げを軸とするのに対し、日本は民生用途の社会実装と防衛用途の能力構築を並行して進める二正面戦略の様相を呈しています。

 

(6)民軍融合とデュアルユース

EU行動計画は、民生分野を主眼としつつも防衛分野を支援し、民軍応用間の相乗効果を明示的に促進する方針を打ち出しています。日本では、デュアルユースに対する社会的・制度的な受容が依然として限定的であり、民間の先端技術を防衛分野へ円滑に転用する仕組みづくりが課題となっています[2-11]。一方で、防衛省の無人アセット防衛能力構築や民間企業の防衛装備品市場への参入が近年進展しており[2-9][2-12][2-13]、EUと類似した民軍融合の方向性が模索されつつあります。

 

2.3 比較整理

 

EUと日本の制度を比較すると、最も顕著な違いは「規制統合の度合い」と「制度設計の主権的制約」の2点に表れています。「規制統合の度合い」については、EUが関連規則による統合的規律を志向するのに対し、日本は所管省庁ごとの分散的整備に依拠しています。「制度設計の主権的制約」については、EUが主権国家の連合体として加盟国権限とEU権限の二層構造を採らざるを得ない一方、日本は単一国家として一元的決定が可能です。

すなわち、両者の差異は単なる制度設計の選択の違いではなく、政治的・歴史的な構造に由来する部分が大きいと言えます。EUは域内市場と域内安全保障を一体的に設計し、域内共通の対ドローン枠組みや民軍相乗効果の明示まで踏み込む一方、日本は累次の航空法改正と関連法令の組み合わせによって、機体登録、国家資格、機体認証、レベル4飛行解禁といった個別要素を段階的に整備してきました。日本の分散型制度は各分野の専門的知見を活かしやすいという長所を持つ一方、運用者にとっての法令適用の重畳性や、横断的な政策調整の難しさという短所も併せ持っています。

このように両制度を相互に照らし合わせると、それぞれの特徴がより鮮明に浮かび上がります。EUの統合的枠組みは、加盟国主権との緊張関係の中で築かれた制度的成果として理解でき、日本の分散型制度は、単一国家の統治構造と各省庁の専門性の蓄積を背景に形成されてきた制度として位置付けられます。

 

 第3章 EU海上保安機関におけるドローン活用

ドローンは、海上保安機能を有するEU機関、すなわち欧州海上安全庁(EMSA)、欧州漁業管理庁(EFCA)、および欧州国境・沿岸警備庁(FRONTEX)の業務において重要な役割を果たしています。本章では、入手可能な情報に基づき、これらの機関がどのような目的でドローンを使用しているか、またどのような種類のドローンを使用しているかについて見ていきたいと思います。

 

3.1 EMSA

 

(1)機関の概要

EMSAは、海上安全・保安、船舶起因の汚染防止および対応に関するEU法令の実施を支援するため、欧州委員会および加盟国に技術的・運用的支援を提供する機関であり、リスボンに本部を置いています。EMSAは独自の実行部隊(執行権限を有する制服組織)を保有しておらず、加盟国当局の海上監視活動に対し、技術的・運用的支援を提供する立場にあります[3-12]。EMSAによるドローンの活用は、海洋環境の保護を主軸としつつ、海上安全および保安に関わる要素にも及んでいます。

 

(2)ドローンの活用目的

ドローン利用の主な目的の一つは、排出ガスモニタリング(「スニッフィング」)です。ドローンは船舶の排気ガスを飛行して硫黄(SOx)および窒素(NOx)の濃度を測定し、船舶がEU硫黄指令[3-1]を遵守していることを確認するとともに、適用される海域における硫黄排出規制海域(SECA)および窒素排出規制海域(NECA)の遵守を確保します。念のため補足しますと、欧州における現在のSECAには、バルト海および北海地域、地中海が含まれ、2026年3月1日からはノルウェー海も追加されます。現在のNECAは、バルト海、北海、およびノルウェー海です[3-2]。 さらに、ドローンは汚染の検知にも活用されています。特殊なレーダーや赤外線センサーを搭載したドローンは、油流出や化学物質の漏洩を検知します。これらは流出の原因となった船舶の特定に役立ち、将来的な法的措置を見据えた証拠収集において重要です。また、ドローンは英仏海峡のような交通量の多い海域の交通状況を監視することで、海上安全にも貢献しています。したがって、ドローンは衝突を防止し、船舶火災や座礁時の状況把握を支援します。最後に、更新された任務規定[3-3]に基づき、EMSAは、国際的な制裁や安全規制を回避するためにトランスポンダーをオフにしている「シャドウ・フリート」の船舶を追跡する際、各国当局を支援することも可能です。

 

(3)ドローンの運用形態

EMSAは長時間の飛行持続時間(6~12時間)と長・中距離航続距離を備えた中型機を保有しており、典型例としてはTEKEVER AR5のような、滑走路またはカタパルトから離陸する固定翼機が挙げられます[3-4]。同機関はまた、Schiebel社のCamcopter S-100やAirbus Flexrotor(最大10時間の航続時間)といった中型垂直離着陸(VTOL)機に加え、汚染対応船に配備されているLockheed Martin/Nordic Unmanned社のINDAGO2/Indagoを含む、軽量VTOL機(クアッドコプター)も使用しています[3-5]。現在使用されている遠隔操縦航空機システム(RPAS)のポートフォリオの概要は、EMSAのウェブサイト[3-6]で閲覧可能です。 EMSAのRPASサービスは、EU加盟国、候補国、EFTA加盟国の海事当局に無償で提供されており、要請に基づき、当該加盟国を発進拠点としてEU周辺のあらゆる海域で運用されます[3-12]。ドローンの操縦・整備は、SchiebelやAirbus Helicopters等のEMSAと契約した民間企業が担当し、運用中のドローンは要請国の指揮監督下に置かれます[3-13]。取得された電気光学・赤外線映像およびレーダーデータは、EMSA RPASデータセンターにリアルタイムで集約され、関係加盟国当局がライブで閲覧できる仕組みとなっています[3-14]

 

3.2 FRONTEX

 

(1)機関の概要

FRONTEXは、EUの対外国境管理および沿岸警備において加盟国を支援し、不法移民や越境犯罪への対応を担うEU機関であり、ワルシャワに本部を置いています。FRONTEXは、3機関の中で唯一、独自の制服を着た実行部隊である「常設部隊(Standing Corps)」を保有しています。常設部隊員は国境管理の執行権限を有し、サービス武器の携行も認められており、2027年までに10,000名規模に拡充される計画です[3-15]。ただし、加盟国が国境管理の主たる責任を引き続き負っており、展開先での常設部隊員はホスト国当局の指揮命令系統の下で活動します[3-16]。FRONTEXによるドローンの活用は、EUの対外国境における安全保障と人命の保護に重点を置いています。

 

(2)ドローンの活用目的

ドローンの主な活用目的は、国境監視、特に不法越境の検知や、人身密輸業者や麻薬密売人の動きの追跡です。また、ドローンは捜索救助(SAR)にも活用されており、例えば、過密状態にある、あるいは漂流している移民船の位置を特定するために使用されています。高高度長航続型ドローンは、大規模な移民の動きを検知するための早期警戒システムの中心的な要素となっています。

 

(3)ドローンの運用形態

FRONTEXは主に中高度長航続型(MALE)無人航空機システム(RPAS)を、地中海における海上国境監視、移民のモニタリング、および捜索救助支援に活用しています。例えば、FRONTEXは2024年末、エアバス傘下のエアバスDSエアボーン・ソリューションズ(ADAS)および長年のパートナーであるイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)と、中高度長航続型システム「マリタイム・ヘロン」を4年間使用する更新枠組み契約を締結しました。これらのドローンは20時間以上の飛行持続時間を持ち、あらゆる気象条件下で昼夜を問わず運用され、FRONTEXの中枢拠点や各国当局へリアルタイムでデータを送信します[3-7]。2025年末から2026年初頭にかけて、FRONTEXは次世代戦術ドローンの試験運用を完了しました[3-8]。 FRONTEXの場合も、ドローンの運航自体は民間契約者に委託する方式が中心であり、自前のパイロットは保有していません。取得されたデータは、欧州国境監視システム(EUROSUR)に統合され、加盟国およびFRONTEX中枢拠点で共有・分析されます[3-17]。常設部隊員はこれらの監視データに基づき、加盟国当局と連携して国境管理活動を実施します。

 

3.3 EFCA

 

(1)機関の概要

EFCAは、EU共通漁業政策の遵守を確保するため、加盟国による漁業管理および検査活動の調整・支援を担うEU機関であり、スペインのビーゴに本部を置いています。EFCAは独自の実行部隊を保有しておらず、加盟国の漁業検査官による検査活動を、合同展開計画(Joint Deployment Plans, JDPs)の枠組みで調整・支援する立場にあります[3-18]。ただし、EFCA職員は「EU検査官(Union Inspectors)」として国際水域で検査任務に従事することができ、2024年以降は加盟国の排他的経済水域(EEZ)における検査権限も付与されています[3-19]。EFCAによるドローンの活用は、主に違法漁業活動の防止に重点を置いています。

 

(2)ドローンの活用目的

EFCAはドローンを使用することで、遠隔地の漁場を監視し、無免許で漁を行っている船舶や、漁が禁止されている保護区域内で漁を行っている船舶を摘発することができます。また、ドローンは、漁獲枠を確保するために小型で価値の低い魚を海に投棄する漁船を発見するためにも使用されています。これは、水面レベルの巡視船からはほぼ確認不可能な行為です[3-9]

 

(3)ドローンの運用形態

EFCAの運営は、EMSAやFRONTEXとは異なります。EFCAは独自のドローン艦隊を維持するのではなく、機関間の協力を大いに活用しています。EMSAおよびFRONTEXとの「三者間ドローン運用協定(Tripartite Working Arrangement)」[3-10]に基づき、EFCAはEMSAおよびFRONTEXが提供するドローンサービスを活用して漁業検査を支援しています。EFCAの最新の作業計画[3-11]の「効率化達成のための戦略」の章においても、「EMSAが調達したドローンおよび汚染防止機器の活用」について言及されています。実際の運用では、合同展開計画の下で加盟国の漁業検査官がEFCA調整センターに集結し、ドローン等から得られた監視データに基づき、加盟国の巡視船・航空機による検査を実施する形が一般的です[3-20]

 

第4章 ポルトガルのドローン市場

 

4.1 市場の現状と状況

 

(1)市場規模と成長動向

ポルトガルのドローン市場は、ここ数年で急速に拡大しました。欧州市場全体ではまだ英国・ドイツ・イタリアなどが主要シェアを占めるものの[4-1]、ポルトガルはAI駆動型・海上監視UASの分野でTEKEVERを中心に存在感を高めており、ウクライナ向け軍用UAVの輸出額は2022年の400万ユーロから2025年には8,730万ユーロへと急増しました[4-2]。 欧州のドローン市場全体は、調査機関によって評価額にばらつきがあるものの、商用ドローン市場ベースで2025年に約75.8億米ドル、2026年に約85.2億米ドルへの拡大が見込まれています[4-3]。ポルトガルの輸出成長を牽引しているのは、AI駆動型UAS分野で台頭するTEKEVERのような企業です(2024年の売上高:7,529万ポンド〔約8,700万ユーロ〕、2025年の売上高:9,500万米ドル〔約8,200万ユーロ〕)[4-4]。これに加え、Beyond Vision、UAVision、Connect Roboticsなどを含む成長中の産業基盤(エコシステム)が形成されており、国内メーカーは合計40社以上にのぼります[4-5]

 

(2)民生分野の動向

防衛分野以外にも、ポルトガルのドローン産業では、特に観光および不動産セクター向けの航空写真・映像撮影サービスが急増しており、多様かつ急速に進化する市場を反映しています。

 

(3)海洋・防衛戦略

ポルトガルは、欧州連合(EU)で3番目に大きな排他的経済水域(EEZ)を有しており、その面積は約170万km²に及びます[4-6]。同国は、ポルトガル海軍主催で毎年トロイア(Tróia)およびセシンブラで開催されるNATOのREPMUS演習(世界最大規模の海上無人システム実験演習、2024年は30か国2,000人以上が参加)のホスト国であり、海軍技術の進歩に対する取り組みをアピールしています[4-7]。この勢いに乗じ、ポルトガル海軍は欧州初の専用「ドローン空母」となるNRP D. João II(2026年4月進水、2027年前半就役予定、建造費1億3,200万ユーロ)を開発中です[4-8]。これは、空中・水上・水中ドローンの展開と運用を目的とした多目的艦であり、従来の空母とは異なる柔軟な運用形態を提示するものです[4-9]

 

4.2 ドローンメーカー「TEKEVER」

 

(1)主要プレイヤーとしての評価

TEKEVERは、以下4点の理由からポルトガル市場の主要プレイヤーとして評価されています。

  • 市場評価額と資金調達規模:規模と資金調達の観点から、TEKEVERの企業価値は10億ポンド(約12億ユーロ)を超え、ポルトガル発祥の企業として7社目の「ユニコーン企業」(評価額10億米ドル超の未上場スタートアップ)となりました。また、防衛分野におけるポルトガル初のユニコーン企業でもあります。
  • 輸出実績と公共契約:TEKEVERは、フランスや英国を含む複数の欧州諸国と、繰り返し大規模な枠組み契約を締結しています。同社のAR5は、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、バルト三国での任務に配備されており、その輸出実績の広さを示しています。さらに、最近のEMSA(欧州海上安全庁)との枠組み契約だけでも、当初の2年間で3,000万ユーロの契約額となり、最大4年間まで延長するオプションが付いています。この契約は、欧州海域全域での同時展開に向けた複数の完全なUAS(無人航空機システム)を提供するものであり、EUの機関市場における持続的な輸出志向の事業展開をさらに実証するものです。
  • 事業展開:事業展開と雇用に関して、TEKEVERはリスボンに本社を置き、世界中で1,000人以上を雇用しており、フランスと英国で事業を展開しています。同社は英国向けに「OVERMATCH」と呼ばれる総額4億ポンド(約4億6,000万ユーロ)の5カ年戦略投資プログラムを推進中であり、これにより1,000人以上の高度な技能を持つ雇用が創出される見込みです。同プログラムの一環として、英国スウィンドンの歴史的建造物「Spectrum Building」内(254,000平方フィート)に同社にとって英国最大となる監視用ドローン製造拠点を2026年夏に開設する予定であり、AR3 EVOおよびAR5の中核生産を初めて英国で行います。これらの動きは、ポルトガルを起点に築かれた同社の生産能力が産業規模へと拡大していることを示しています。
  • 技術力:技術面において、TEKEVERは最大約20時間の飛行持続時間を誇るAR3やAR5など、複数のドローンを開発しています。2025年4月時点で、TEKEVERのAR3およびAR5システムは、ウクライナでの実戦飛行時間が1万時間を突破しました。

 

(2)会社概要

2001年にリスボンで設立されたTEKEVERは、当初AIに特化したソフトウェア企業としてスタートしましたが、2010年以降は監視用ドローンの開発を専門とし、欧州の防衛系無人航空機(UAV)分野で存在感を示すプロバイダーおよび防衛技術の有力企業として認知されるようになりました。現在、TEKEVERはAI駆動型自律技術の分野におけるパイオニアの一社として、ミッション指向の無人航空システムに加え、データおよびインテリジェンスサービスを提供しています。

同社は、ATLASプラットフォームを通じて「リアルタイム・インテリジェンス・アズ・ア・サービス」のプロバイダーとしての地位を確立しています。このプラットフォームはデータを処理し、民間および防衛セクターの顧客に実用的な知見を提供します。同社のAI強化型UAVは、海岸線の監視、汚染の追跡、紛争地域での情報収集を行い、ポルトガルの成長著しいハイテク産業を体現しています。

TEKEVERは欧州の複数の国で事業を展開しており、ポルトガル、英国、フランスにエンジニアリングセンターを構えるほか、ウクライナを含む欧州全域に生産および運用支援チームを配置しています。同社の監視用AR3ドローンは、2022年の戦争勃発以来、ウクライナにおける陸上および海上作戦を支援しています。

前述の通り、TEKEVERは欧州で最新の「ユニコーン企業」となり、同社の拡大を加速させ、欧州の防衛イノベーション・エコシステムを強化することを目的とした、英国における5年間で4億ポンド規模のプログラムの開始と時期を合わせた資金調達ラウンドを経て、11億7,300万ユーロの評価額に達しました。

 

(3)主力製品

① TEKEVER AR3 EVO

TEKEVER AR3 EVOは、高リスクな海上、陸上、および紛争地域での運用を想定して設計された、次世代の多用途無人航空機システム(UAS)です。欧州で開発され、ウクライナでの広範な前線運用を通じて「実戦実績」を積んだ本システムは、そのモジュール性が特徴です。AR3 EVOの「柔軟性の4本柱」により、オペレーターは特定の任務ニーズに合わせて、機体のペイロード、推進システム、通信、展開方法を迅速に再構成できます。5分以内に組み立て・離陸が可能で、最大航続時間を確保するための純粋な固定翼モードと、船舶の甲板など5×5メートルという狭い空間での運用に適したVTOL(垂直離着陸)モードとの切り替えが可能です。

② TEKEVER AR5

TEKEVER AR5は、広域海上監視、捜索救助(SAR)、国境警備に特化して最適化された、中高度・中航続距離の固定翼無人航空機システム(UAS)です。欧州初のUASベースの海上監視システム構築に選定されたことから、先駆的なプラットフォームとして認知されています。2017年から運用されているAR5は、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、およびバルト三国における任務に配備されています。その能力は、EMSAおよび各国当局によって、広域海上監視任務の幅広い分野で活用されています。これには、海域の状況把握、漁業管理、法執行、環境保護などが含まれます。特に、このシステムは救命筏放出ソリューションを備えた海上救助活動も支援しています。

なお、別添の表には、AR3 EVOとAR5の主な特性に関する技術的比較分析が示されています。

③ TEKEVER ARX

TEKEVER ARXは、複雑で多領域にわたる作戦において、小型UAVの群れを展開・調整できる「マザードローン」として設計された、次世代の高性能UASです。当初は2025年の商業デビューを予定していたARXは、TEKEVERにとってこれまでで最大かつ最も先進的なプラットフォームであり、最大離陸重量(MTOW)600kg、積載量150kg、最大30時間の飛行持続時間を特徴としています。広域監視や人命救助任務向けに設計されており、長距離センサー投射と近距離での高精細検査とのギャップを埋めるものです。

 

(4)主な導入機関

TEKEVERの製品を導入する主な機関は、沿岸警備隊、国境警備機関、欧州海上安全機関(EMSA)などです。

  • ポルトガル国家共和警備隊(GNR):競争入札を経て、TEKEVERはポルトガル国家共和警備隊(GNR)との契約を獲得しました。この契約により、5メートルのカタパルト発射、100kmの監視半径、16時間の運用範囲を特徴とする最先端の無人航空システムが導入されます。AR3は、高度なドローンによる監視を通じてポルトガルの沿岸警備を強化し、違法漁業や麻薬密輸などの経済・環境犯罪の撲滅に貢献します。この官民連携により、ポルトガルの沿岸全域にわたる堅牢な監視能力が提供され、治安と環境保護の両面が強化されます。
  • 欧州海上安全機関(EMSA):TEKEVERは、欧州海上安全機関(EMSA)と、海上作戦向けの無人航空システムを提供する3,000万ユーロの枠組み契約を締結しました。当初2年間の契約(最大4年間まで延長可能)には、2つの完全なシステムが含まれており、各システムは2機のUASで構成されています。これにより、複数の地域での同時展開が可能となり、欧州全域の海域における監視体制が強化されます。本プログラムの中核となるのは、TEKEVER AR5です。これは、複雑な海洋環境向けに設計された中高度・長航続型の固定翼UASであり、最大12時間の航続時間を有し、視界外(BLOS)運用が可能です。
  • スペイン内務省(スペイン国家警察航空部隊を代表して):TEKEVERは、スペイン内務省(スペイン国家警察航空部隊を代表して)と、総額約500万ユーロに上る多目的契約を締結しました。納入は2024年から2025年にかけて行われる予定です。本契約により、複数のAR3システム、その付属品、カメラ、およびTEKEVERのAI搭載プラットフォーム「ATLAS」へのアクセスが提供されます。同システムは、監視および海上任務における性能の高さから、他候補の中から選定されました。
  • 英国内務省:英国内務省は、TEKEVERとの3年間の契約を更新し、同社のAR5およびAR3ドローンを用いて英仏海峡全域で「Surveillance-as-a-Service(監視サービス)」を提供し、海上監視任務などを支援することとしました。

 

4.3 その他の関連ドローンメーカー

 

TEKEVERがこの分野の有力なリーダーとして存在感を示している一方で、ポルトガルの無人航空機システム(UAS)セクターは、海上および国境警備を専門とする革新的な企業からなる多様な産業基盤(エコシステム)によって支えられています。

 

(1)UAVision Aeronautics

UAVision Aeronauticsは、2005年にポルトガルのVentosa(Alenquer)で創業された、防衛および環境モニタリング向けの無人システムの開発・製造を専門とする企業です[4-10]。同社の主力製品「OGASSA OGS42」は、最新世代の軍用グレードUASで、ポルトガル空軍第991飛行隊が2019年から12機を運用しているほか、垂直離着陸版(OGS42V/海軍呼称「Albatroz級」)はポルトガル海軍がBartolomeu Dias級フリゲート艦やViana do Castelo級沿岸哨戒艦(OPV)で運用しています[4-11]。同社はポルトガル空軍(PAF)およびポルトガル海軍と長年のパートナーシップを維持し、OGASSA UASやSpyroプラットフォームを含む各種UASおよび関連サブシステム(自動操縦装置UXpilot、長距離通信StormCOMM、電子光学センサーUGSなど)を供給しています[4-12]。同社のシステムは、森林火災の監視や環境脅威の検知・防止を目的としたISR(情報・監視・偵察)作戦など、重要な国家任務に活用されているほか、ブラジル、ナイジェリア、アンゴラ、韓国、インド、UAE、ドイツなど4大陸で運用されています[4-13]

 

(2)Beyond Vision

Beyond Visionは、2013年にDário PedroとLuís Miguel Camposによって設立された、リスボンを拠点とするドローンメーカーです[4-14]。同社はNATO認証を取得しており、AIアルゴリズムとクラウドベースのUAV(無人航空機)管理プラットフォーム「beXStream」を中核技術としています[4-15]。主力製品はクラス3ヘキサコプター「HEIFU」(およびその上位機種HEIFU Pro)、クラス3クアッドコプター「BVQ418」、ハイブリッドVTOL機「VTOne」など、いずれも産業・防衛用途向けに設計されています[4-15]。主な顧客は防衛・セキュリティ・産業インフラ分野に集中しており、ポルトガル海軍(2022年からHEIFU 6機およびVTOne 6機を運用)、ポルトガル陸軍、フランス・ドイツ警察、中東のSpace42などが含まれます[4-14][4-16]。生産量の約95%を輸出しており、主要市場は米国、中東、ブラジル、欧州です[4-14]。2025年には米国向けに2028年までに300機の「緊急用ドローン」を供給する1,500万ユーロの契約を締結し、最大1,000機への拡張オプションも付与されています[4-14][4-17]。同契約に伴い、2027年には米国に5,000万ユーロを投じた製造拠点を新設する計画です。同社の従業員数は約80人で、2035年までに800人への拡大を目指しています[4-14]

 

(3)Connect Robotics

Connect Roboticsは、2015年1月にEduardo MendesとRaphael Stanzaniによって設立された、ポルトガルのSão João da Madeira(ポルト郊外)に本拠を置く自律型ドローン配送のテクノロジー企業です[4-18]。同社は、ラストマイル物流における従来の陸上輸送の時間・コスト・環境負荷を削減することを目指しています。同社の中核技術は、ドローンの完全自律飛行を可能にするクラウドベースのプラットフォームであり、機体に搭載されたスマートフォンが衛星測位システム(ガリレオ含む)を通じてクラウドサーバーと連携し、飛行経路の設定とリアルタイム監視を行います[4-19]。RTK(リアルタイムキネマティック測位)とマシンビジョンを組み合わせた高精度配送技術により、都市部や窓・屋根・バルコニーなど狭隘な地点への配送も可能となっています[4-18]。同社はハードウェア非依存(hardware agnostic)の方針を採用しており、自社で機体を製造するのではなく、SleekLabなど複数メーカーのマルチローター機(クアッドコプター・ヘキサコプター)に自社制御システムを統合する形でサービスを提供しています[4-19]。15件以上のBVLOS(目視外飛行)運用認可を取得しており、欧州の新規制下での運用も含まれます[4-18]。主な顧客は医療・物流・郵便セクターに集中しており、地方薬局Farmácia da Lajeosa(医薬品の遠隔地配送、ポルトガル全国薬局協会のイノベーション賞受賞)、CTT(ポルトガル郵便、首都リスボンの都市部における初のBVLOS自律配送)、Santa Casa da Misericórdia de Penela(食事配送)など、病院・医療検査機関・医療サービス事業者・郵便事業者との提携実績があります[4-18][4-20]。同社はESA(欧州宇宙機関)Business Incubation Centre Portugalのインキュベーションを受け、CB Insightsの2024年「医薬品サプライチェーン技術市場マップ」にも掲載されています[4-20][4-21]

 

まとめ

 

本報告書では、EUにおけるドローン規制、沿岸警備機能を有するEU機関での運用、日本制度との比較考察、及びポルトガルを中心とする欧州関連企業の動向を整理しました。これらの整理を通じて、ドローンは民間利用や産業振興にとどまらず、海上監視、国境管理、治安維持、防衛・安全保障、対ドローン対応にも関わる横断的な技術であることを確認しました。

 

まず、EUでは、EASAを中心とする制度整備が進められています。その制度的枠組みは、UASの運用、認証、操縦者、耐空性等を対象とするものであり、ドローンを民間航空安全規制の中に位置付けるものです。一方で、欧州ドローン戦略2.0や対ドローンセキュリティ行動計画に見られるように、EUはドローンを民間航空の範囲にとどまらず、産業政策、域内安全保障、重要インフラ防護、国境管理とも関係する技術として捉えています。

 

このような制度・政策上の位置付けは、EU関係機関の実運用にも表れています。EMSA、FRONTEX、EFCAでは、海上監視、環境監視、国境管理、捜索救助、違法漁業監視等にドローンが活用されています。これらの運用から、ドローンは既存の船舶、航空機、衛星、沿岸レーダー等を直ちに代替するものではなく、それらを補完し、監視・取締り・情報収集能力を高める手段として用いられていることが確認されます。

 

また、日本の制度については、EU制度を把握するための補助的な比較対象として一部確認しました。EUと日本では、規制主体、法令構造、行政上の所管に違いが見られますが、本報告書は両者の制度の優劣を評価するものではありません。むしろ、それぞれの制度的背景や行政構造の違いを踏まえつつ、ドローンをめぐる制度が、航空安全、重要施設防護、電波利用、防衛・治安、産業利用など複数の行政分野に関係することを確認するものです。

 

さらに、ポルトガルを中心とする企業動向を確認することで、ドローンの横断性は産業面からも把握できます。TEKEVER等の事例に見られるように、ドローン産業は機体製造にとどまらず、AI、センサー、通信、データ処理、運用支援を含むサービスとして展開されています。これにより、ドローンが海上安全、国境管理、防衛・治安、環境監視、物流等の複数分野にまたがる技術であることが、企業活動の面からも確認されます。

 

以上のように、本報告書で扱った規制、政策、機関運用、制度比較及び企業動向はいずれも、ドローンが単一の用途や単一の法制度だけでは捉えにくい技術であることを示しています。このため、ドローンをめぐる論点は、個別の機体性能や個別法令の問題にとどまらず、民間利用、防衛・治安利用、海上監視、産業基盤、規制、運用、関係機関間の連携、対ドローン対応や重要インフラ防護を含む悪用・誤用への対応など、複数の領域にまたがることが確認されます。今後の調査においても、欧州の事例を中心に位置付け、本体及び搭載機器を含む研究開発・製造、調達、データ利用を含む関連論点を、引き続き横断的な観点から把握していきたいと考えています。

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

 

 

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