欧州海上安全レポート

No.26-03「特集 国際救難連盟の活動紹介」
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「IMRF(国際海上救難連盟)の活動紹介」

◆はじめに

日本海難防止協会ロンドン事務所は、昭和58年(1983年)の開設以来、国連の専門機関である国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)をはじめ、欧州における海事・海上安全保障に関する政策動向等について、調査研究および情報収集を行っております。また、各種国際会議等の場では、関係機関との情報交換にも努めております。そうした関係機関の一つがIMRFです。

 

海難防止と捜索救難(SAR)は密接に関わっており、当事務所としてもIMRFと接する機会が多く、国際動向や安全に関する有益な情報を得られる場面が少なくありません。また、IMRFは歴史的にも日本との縁が深いとされることから、本稿ではその活動概要をご紹介いたします。

なお、本稿は、海上安全に関する国際的な議論や実務上の知見の把握に資することを目的として、公開情報に基づきIMRFの活動を紹介するものです。特定団体の支援・推奨、または優劣の評価を意図するものではありません。

 

◆IMRFの組織概要

・設立経緯と沿革

IMRF(International Maritime Rescue Federation:国際海上救難連盟)は、海上における捜索救助(SAR)に関わる組織が国境を越えて連携し、知見を共有するための国際的ネットワークとして長い歴史を持つ非政府組織(NGO)です。起点は1924年、ロンドンで開催された国際救命艇会議を背景に設立された国際救命艇連盟(ILF: International Lifeboat Federation )にさかのぼります。[1]

当時、この国際的枠組みづくりにおいて日本側関係者が一定の役割を果たしていた点は、日本にとって注目すべき点です。会議には、当時の日本の救命艇組織代表者が参加し、今後も各国の救命艇組織が継続的に会合を持ち、国際協力の枠組みを形成していくことの重要性を訴えました。さらに海難救助に関する国際的な組織を設立するための措置を講ずるべきとの趣旨の提案を行い、これが会議で受け入れられたとされています。[2]

海上の人命救助は各国の制度・組織形態が異なる一方、現場で直面する課題には共通項が多く、こうした問題意識のもと、早い段階から国際的な知見共有が模索されてきた経緯があります。日本がその初期段階に関与していたことは、今日の国際的なSAR協力を考えるうえでも象徴的です。

ILFは、その後の国際SAR制度の整備や運用課題の多様化に応じて活動領域を広げ、現在のIMRFへと発展しました。国際機関そのものではありませんが、海上救助に関わる実務者の知見が集積される場として、一定の存在感を保ってきた点が特徴です。[3]

・組織の目的・性格

IMRFの目的は、端的には「世界の水域での人命損失を減らす」ことに置かれています。会員には、救命艇組織、海上保安機関、海軍、民間救助団体、関連産業などが含まれ、官民・常勤/ボランティアを問わず幅広い層が参加します。[4]

IMRF は国際海事機関(IMO)において非政府組織としての諮問的地位を有しており、海上 SAR に関する実務知見を関連会合等を通じて国際的に提供しています。[5]

・IMRFの活動概要

IMRFの活動は、特定の海域・特定の国に限定されるものではなく、各国・各地域の実情の違いを前提に、共通化できる部分を整理して共有することに重点が置かれています。実務的には、次のような形で現場に資する成果物を提供しています。[6]

  • ガイダンスや報告書の整備:多機関連携、訓練設計、運用上の教訓整理などを文書化し、各国で参照・転用しやすい形で提供します。
  • 訓練・能力構築:地域特性(洋上環境、組織体制、装備、連絡体制)に応じて、演習や教材の考え方を提示します。
  • 会議・ワークショップ:連携、通信、指揮統制、医療搬送、広報などの実務課題をテーマ化し、経験の少ない組織でも学べる枠組みを整えます。
  • 国際制度・基準への関与:国際SAR制度を支える代表的文書として、IMOとICAOが共同で策定するIAMSAR Manualがあります。IMRFは、IMOにおいて情報提供や意見具申を行い得る立場を通じて、IAMSARを含む関連議題の動向を把握し、現場の知見に基づく論点整理を行うことで、国際的な検討に実務面から貢献しています。

 

◆近年の活動

・大規模救助活動に関する取組み

MRO(Mass Rescue Operations:大規模救助活動)は、クルーズ船・フェリー事故、洋上火災、航空機の海上不時着など、多数の要救助者が同時発生し、平時のSAR能力だけでは対応が逼迫し得る事態を想定します。

この分野は「低頻度・高インパクト」であり、経験知が蓄積しにくい一方で、ひとたび発生すれば国家・地域の総力対応になります。IMRFが提供するMROガイダンス[7]や訓練関連の知見は、こうした事態に対し、計画・訓練・多機関連携の共通言語を整える点に意義があります。

特に、MROは救助現場だけでなく、指揮統制、通信、医療搬送、港湾対応、報道対応、自治体・民間の関与などが同時進行になります。IMRFの成果物は、各国の体制差を前提にしつつも、検討すべき論点を抜け漏れなく提示するチェックリストとして有用です。[8]

・新たな課題への取組み

近年、SARの前提条件そのものが変化しています。海象の厳甚化、極端気象、沿岸災害の増加、航路や活動域の変化など、気候変動に伴う要因は、出動の安全性・装備・訓練・要員確保に波及します。IMRFは、こうした長期トレンドを「現場で使える論点」に翻訳する取組み(例:FutureSAR [9])を進めています。[10]

また、もう一つの重要テーマが、事故・ヒヤリハット・訓練の教訓を共有し、学習を加速する仕組みです。データ共有は各国で法制度や文化が異なるため難度が高い一方、共有できれば再発防止や安全文化の底上げに直結します。IMRFがこの領域(例:SaferSAR)を扱っている点は、従来の「救助技術」中心の枠を超え、組織学習を重視していることを示しています。[11]

・Global・SAR・Review調査研究

IMRFは、世界の海上SAR全体を俯瞰し、能力ギャップや新たなリスクを把握して、10〜20年後の未来を見据えた論点整理と提言をまとめる取組みを進めています。成果物により各国海上保安機関はRCC運用や多機関連携、MRO対応、人的資源、装備更新、訓練体系などの課題を国際的な共通指標・共通言語で整理し、自国制度を客観的に点検できることが期待されます。また、海事関係者にとっても、遭難通報から救助、医療搬送に至る連鎖の中で、民間が果たす役割(通過船舶の協力、通信・情報基盤、資機材・訓練支援等)が整理されることで、官民連携の改善点や投資・協力の焦点が明確になります。レビューは文献調査やインタビュー、オンライン調査、地域別ワークショップ等を通じて現場の声を取り込み、最終報告書は2027年1月に公表されることが示されています。

加えて、ワークショップを通じ、現場の課題を「他人事ではない形」で共有し、対応の選択肢を増やす活動も行われています。実務者同士の経験共有は、資料を読むだけでは得られない学び(意思決定の勘所、連携の失敗例、訓練設計の工夫など)をもたらすことが期待されています。[12]

 

◆さいごに

以上、簡単ですが関係機関のひとつIMRFについてご紹介させていただきました。

IMRFはロンドンに拠点を置き、海上SARに関する実務知見を国際的に共有しながら、ガイダンスの整備や議論の場の提供を通じて各国の備えを支えるNGOです。こうしたIMRF関係者と継続的に意見交換できる立場にあるJAMSロンドン事務所が一定の接点を維持することは、海難防止に資する国際動向を継続的に把握していくうえで有効だと言えます。付言すると、IMRF(前身組織を含む)の設立に、約100年前に日本が関与していたことは意義深く、誇らしい事実だと個人的に感じます。

海難防止は事故を起こさないための取組みですが、同時に、万一事故が発生した場合に被害を最小化するための対応力、すなわちSARの質も安全文化の重要な要素です。IMRFが蓄積してきた知見は、救助現場で得られた教訓を体系化し、他国・他組織でも参照しやすい形で共有している点に特徴があります。

また、IMRFの取組みは、MRO、気候変動、学習の仕組みといった論点を検討するうえでも有用な参照材料となります。JAMSロンドン事務所としては、引き続きIMRFを含む関係機関を通じた情報収集に努め、得られた知見を踏まえ、適切な情報発信に努めてまいります。

(日本海難防止協会ロンドン事務所所長 立石 良介)

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