欧州海上安全レポート
欧州委員会は7月31日、欧州国境沿岸警備隊(Frontex)を統括するEU規則の改正に向けて、関係者からの意見募集を開始しました。この改正の目的は、EUの対外国境保護能力の強化、進化するセキュリティ課題への対応、そして加盟国間での統合国境管理の効果的な実施を確保することにあります。
Frontexは2005年5月1日に設立され、現在は規則(EU)2019/1896に基づいて活動しています。同機関は、国境管理、不法滞在者の送還、およびEU外部国境での安全確保において、加盟国と協力して国境警備活動を行う中核的な役割を担っています。
2022年5月から2023年10月にかけて実施されたFrontex規則の評価では、機関の効果を制限する法的・運用上の課題が明らかになりました。たとえば、特定の任務における権限の不明確さ、不法滞在者送還に関する能力の限界、一貫性のない訓練基準、そしてFrontexの拡大された役割に合致しなくなっている可能性のあるガバナンス構造などが指摘されています。
現在のFrontex統括規則は、欧州委員会に対して規則改正を義務づけるものではなく、定期的な評価の実施のみが義務とされています。しかし、評価結果で課題が浮き彫りになったことを受け、欧州委員会は規則改正に向けた見直しプロセスを開始するに至りました。
今回提案される改正では、上記の課題に対応し、常設の国境警備部隊に対応できる体制整備や、Frontexの技術的能力の向上が図られる予定です。また、第三国との協力の強化、越境犯罪への対処、訓練基準の調和、基本的権利の尊重を確保しつつ、ガバナンスと監督の強化を目指す内容が含まれています。
意見募集は、加盟国、EU機関、市民社会、国際機関、産業界、学術界、そして一般市民を対象としており、オンラインでの意見提出は9月11日まで受け付けられています。寄せられた意見は、影響評価の一部として活用され、2026年第3四半期に予定されているFrontex規則の改正案作成に反映される予定です。
このプロセスは、他のEU機関に関する規則改正と同様の手順で進められる見込みですが、Frontexに関する改正は国境管理や移民といった、政治的にセンシティブな分野を含んでいるため、より高い関心や議論を呼ぶ可能性があると見られています。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石)