欧州海上安全レポート

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25-04-2. EU水素基準採択

欧州委員会は、航空機燃料、船舶燃料、工業用燃料など、電力では代替が難しい用途におけるCO₂排出削減型水素およびその誘導体(アンモニア、メタノールなど)(以下「CO₂排出削減型水素等」といいます)を定義するための、正確な基準と方法論を導入する委任規則およびその附属書を提出しました。

この委任規則は、再生可能ガス、天然ガス、水素に関するEU域内統合市場の共通ルールを定めた指令(EU)2024/1788を補完するものです。指令のうち、CO₂排出削減型燃料の分類や評価に関連する規定を、より具体的に定める内容となっています。

 

欧州委員会が発表したプレスリリースでは、CO₂排出削減型燃料について、「航空、船舶、特定の工業プロセスなど、現在は電化が現実的ではない分野における脱炭素化の取り組みを支援する重要な手段である」と説明されています。

また同リリースでは、上記指令に基づき、CO₂排出削減型と見なされるためには「従来の化石燃料と比較して、70%以上の温室効果ガス(GHG)排出削減が必要である」とされています。

この基準を満たす水素等の生産方法には複数の選択肢があり、たとえば以下のような例が挙げられています。

  • 天然ガスを原料とし、CO₂回収技術(CCS)を組み合わせる方法
  • 太陽光や風力などの再生可能エネルギーを用いて水素を製造する方法

委任規則およびその附属書の主な目的は、これらの燃料がどのようにして「低炭素」と認められるかを正確に定義することにあります。たとえば、水素が天然ガスパイプライン、液化天然ガス(LNG)、その他の化石燃料を原料として生産されるかどうかに応じて、異なる「デフォルト排出値」を設定する方法などが定められています。

今回の委任規則は、再生可能水素の定義と生産条件を定めた委任規則(EU)2023/1184を補完するものであり、特に航空・船舶など脱炭素化が困難とされる分野における水素活用の制度整備として、EUの規制体系に重要な追加と位置づけられています。

なお、この規則の整備はIMO(国際海事機関)での国際的な規制議論とは独立して、EUの主導で行われています。しかし、CO₂排出削減型水素等は、IMOが合意した国際的な脱炭素目標を達成するための有力な手段として位置づけられており、結果的に共通の目的を持つ取り組みといえます。

 

この委任規則は、欧州議会またはEU理事会(加盟国)による正式な異議申立てがなければ、2025年11月10日までに自動的に発効する予定です。ただし、そのような異議が提出される可能性は極めて低いと見られています。

今回の基準採択は、CO₂排出削減型水素等に関するEUの規制枠組みを体系的に整備する上で、極めて重要な構成要素となっています。

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石)

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