欧州海上安全レポート

No.26-04_1 記事
26-04-3. アントワープ港がドローン防護体制を強化

26-04-3. アントワープ港がドローン防護体制を強化

 

ドイツとベルギーは、無許可のドローンによる脅威の高まりを受け、重要インフラを保護するための軍事的・立法的措置を進めています。

 

ドイツでは、公共放送ARDなどの報道によると、連邦議会がドローンから空港を守るための航空保安法改正案を可決しました。当局は、ドローンが破壊工作やスパイ活動に用いられる「ハイブリッド脅威」をもたらすと警告しています。単独のドローンでも空港機能を麻痺させ、航空便の迂回やサプライチェーンの混乱を招く可能性があります。これに対応するため、新法では、ドイツ連邦軍(Bundeswehr)の権限を拡大し、必要に応じて警察を支援してドローン対処に当たれるようにしました。また、意思決定手続も簡素化され、国防省は内務省との事前協議なしに、より迅速に対応を決定できるようになりました。極度の緊急時には、他の手段で危険を回避できない場合に限り、最終手段として武力を行使することも可能とされています。さらに、この法律では、意図的に空港の保安区域に侵入し、民間航空の安全を脅かす行為に対する罰則も強化され、従来の過料ではなく、最高2年の懲役を科す犯罪として扱われます[3-1]

 

《備考》 EUでは従来から、EU規則の下で加盟国が設定する地理的区域(geo-zones)により、空港、軍事施設、原子力施設、重要産業施設などの周辺でドローン飛行を制限してきました。ただし、これらは主として「飛行を制限する」ための枠組みであり、実際に飛来した悪意あるドローンを迅速に排除するための法的根拠や軍民連携の仕組みは、各国で必ずしも十分ではありませんでした。今回のドイツの航空保安法改正は、こうした従来の規制の限界を踏まえ、違反ドローンへの対処権限や意思決定の迅速化など、「対処・排除能力」を強化するものといえます。

 

一方、ベルギーでは、報道によると、重要な物流拠点であるアントワープ港の防護強化が進められています。ベルギーのバート・デ・ウェーバー首相は、2027年から同港にNASAMS型の防空システムを導入すると表明しました。このシステムは、ドローン、戦闘機、その他の短距離空中脅威への対処を想定したものです。ただし、建物の間を低空で飛行する小型ドローンへの対応には限界があるとみられています。こうした脅威を受け、ベルギーは対ドローン能力の整備も進めています。2025年には、ベルギー国内で空港や軍事基地の一時閉鎖を招くドローン事案が発生したほか、アントワープ港周辺でも原子力発電所、BASFの化学施設、コンテナターミナル上空で不審なドローンが確認されました[3-2]

 

《備考》 NASAMS(National Advanced Surface-to-Air Missile System)は、ノルウェーのKongsberg社と米国Raytheon社が共同開発した短~中距離の地上配備型防空システムです。港湾、空軍基地、人口密集地などの高価値目標の防護を想定したシステムで、ワシントンD.C.の防空にも長年用いられています。

《備考》 シャヘド(Shahed)型ドローンは、イランのシャヘド航空産業が開発した自爆型(徘徊型)無人航空機の総称です。代表例のシャヘド136は、低コストで大量運用しやすく、ロシアがウクライナ戦争で「ゲラン2」の名称で投入したことで広く知られるようになりました。また、2026年2月28日の対イラン攻撃では、米軍がシャヘド136を模したLUCASを初めて実戦投入したとされています。

 

ドイツとベルギーのこうした動きは、特にロシアによるハイブリッド脅威への警戒を背景として、EU諸国がドローンによる空中脅威に対する防衛能力とレジリエンスの強化を急いでいることを示しています。とりわけ、ロシア・ウクライナ戦争においてドローンが偵察・攻撃の両面で大きな役割を果たしていることが、欧州各国の危機意識を高めています。同戦争で顕在化したドローンの脅威が、重要インフラ防護の緊急性を各国に再認識させ、今回のような立法措置や防空体制の強化を加速させたものと考えられます。

 

(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)

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