欧州海上安全レポート
26-02-2. 北海バルト海沿岸国、海上脅威を警告
2026年1月26日、北海およびバルト海に面する沿岸国13か国(ベルギー、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、英国)にアイスランドを加えた計14か国は、共同の公開文書に署名し公表しました[2-1]。
公開文書は、「国際海事コミュニティ、特に旗国・港湾国、国家当局、船籍登録機関、船級協会、海運会社、管理者・運航者、そして船員」に向けて発せられたもので、両海域における海上の安全・保安リスクが増大しているとして警告しています。
特にジャミング・スプーフィングといった問題を取り上げ、GNSS妨害とAIS操作を海上の安全・保安上の脅威として認識することを求めています。また、国際条約で求められるとおり、航法システムに障害が生じた場合でも安全に運航できる十分な能力と、適切に訓練された乗組員を確保するよう要請しています。さらに、障害・信号喪失・妨害の発生時にGNSSの代替となり得る地上系無線航法システムの開発について、国際的に協力することを提案しています。
バルト海・北海地域がハイブリッド脅威やサイバー脅威、また制裁回避に関係する「影の船隊」をめぐるリスクに継続的に晒されている、という問題意識を反映したものになります。なお、欧州委員会では3月4日に産業政策関連の提案公表が予定されているとの報道もあり、こうした安全保障・レジリエンス上の論点が、関連政策の議論で考慮される可能性があります[2-2]。
《備考》
■ GNSS妨害・AIS操作の現状
GNSS(全地球航法衛星システム)への妨害・偽装(スプーフィング)は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、バルト海周辺を含む複数海域で増加が指摘されています。民間分析では、2025年第2四半期だけで1万隻超の船舶が影響を受けたとの推計もあります。
また、ペルシャ湾・ホルムズ海峡では、特定期間に1日あたり約970隻がGPSジャミングの影響を受けたとの民間データ報告があります。
バルト海周辺では、カリーニングラード州などが干渉のホットスポットとして言及され、電子戦関連システム(Tobol等)との関連を指摘する報告もあります(原因の特定は資料により幅があります)。
フィンランド沿岸警備隊は、2024年4月以降、衛星航法信号への恒常的な妨害を検知していると報告しています。
一方、AIS(船舶自動識別装置)の操作については、制裁回避に関係する船舶群(いわゆる影の船隊)をめぐり、位置情報の偽装やAISデータの不自然な挙動が問題視されています。
■ 既存の国際的対応とその限界
2025年3月、IMO・ICAO・ITUは、RNSS(無線航法衛星業務)に対する有害干渉(ジャミング・スプーフィング)の増加に深刻な懸念を示し、加盟国に対して保護措置等を求める趣旨の共同声明を公表しました。
EU側でも、Galileoの民生向け認証サービスの運用開始など、スプーフィング対策を含むレジリエンス強化が進められています。さらに欧州委員会の発言として、2026–27に干渉監視(RFIモニタリング)サービスを準備する旨も示されています。
もっとも、海上の安全・保安の観点で、各国が取りうる執行措置や国際的な運用の統一には、なお課題が残るという見方もあります(法的根拠や実務運用は国際法・国内法・港湾国措置等に依存します)。
■ 本文書の意義
本文書は、沿岸国が連名でGNSS妨害とAIS操作を海上の安全・保安上の脅威として扱い、国際海事コミュニティに具体の対応(認識、能力・訓練確保、代替航法手段の共同開発等)を求めた点に特徴があります。
これにより、旗国・港湾国の注意喚起の強化、影の船隊をめぐるリスク低減、そして国際機関レベルでの議論の促進が期待されます。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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