欧州海上安全レポート
2025 年10月9日、欧州連合航空安全機関(EASA)は、イノベーション航空モビリティ(Innovative Air Mobility, IAM)ハブ(新しい航空輸送のための情報プラットフォーム)の第5 版を公開しました。
※1 IAMハブの各版の概要は以下のとおりです。
第1版(2023年12月):プラットフォーム開設
第2版(2024年5月):プライバシー保護ガイドラインを追加
第3版(2024年7月):環境影響評価機能と地理情報を追加
第4版(2025年5月):市場統計ツールとEU全体の人口密度データを追加
IAM ハブは、ヨーロッパのドローンとeVTOL関係者(都市、当局、製造業者)を結ぶデジタルプラットフォームです。EUドローン戦略2.0の一環として、各国の規制枠組みを整合させ、加盟国による一貫した認証、空域管理、運用基準の実施を支援します。これにより、配送、検査、旅客輸送用ドローンの安全で持続可能な利用を促進します。
※2 ハブの新機能には以下が含まれます。
・ ドローン規則ナビゲーター:運用者が適用される規制を理解し、運用カテゴリを決定し、関連
要件を特定するための支援ツールです。
・ 自治体向けガイド:自治体が都市型ドローンサービスを形成・管理するための指針です。
・ eSORAツール:ドローン運航のリスク評価を自動化するツールであり、運航計画立案と承認
手続きを支援します。
特定運航リスク評価(Specific Operations Risk Assessment, SORA)は、目視外飛行や都市部での飛行など高リスクのドローン運航前に必要とされる10段階の評価手法です。eSORA ツールはこのプロセスを自動化したもので、運用者はリスク評価の各ステップを段階的に進め、地上および空域のリスクを特定し、緩和策を定義し、必要文書を自動生成できます。技術的・管理的タスクの自動化により、特に小規模運用者やスタートアップ企業に有益です。また、複数の加盟国にわたる運航を簡素化する国境横断運航機能も搭載されています。
IAM ハブは欧州委員会と欧州議会の資金提供を受け、EUドローン戦略2.0の一環として開発されています。EASAによると、IAMハブの進化はヨーロッパでのドローン産業の発展段階を示しています。フランス、スペイン、フィンランドなど複数の国では既に国が指定したドローン実証空域やパイロットプログラムが運用されています。こうした実証実験の成果を踏まえ、EASAは2030年までにドローンが物流、インフラ検査、緊急対応などの分野で本格的に活用されることを見込んでいます。
海事分野においては、IAMハブのツールがリスク評価と国境横断調整の標準化を通じて、海上保安機関等による監視、汚染モニタリング、捜索救助活動の効率向上に寄与する可能性があります。これは、ドローン運用の高度化が港湾・沿岸監視分野にも適用され得るという観点からの示唆です。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)