欧州海上安全レポート
2025 年10月8日、無人水上船舶(USV)がオランダの公共水域で初めて実運用での航海を実施しました。この「初めて」が意味するのは、オランダの法律に基づき、指定された試験区域外で合法的に運航した最初の船舶であるということです。これまでの試験が管理された環境に限定されていたのに対し、この航海は、オランダ水域での自律航行にとって技術面・運航面の両面で重要な節目となりました。類似の国際的事例としては、シンガポールの港湾水域やノルウェーのフィヨルドで試験された自律型測量船が挙げられます。
※1 その他ノルウェーの比較事例:英国HydroSurv社製の小型測量USV「Bris」(全長4.7m)がNordic USV 社によって 2024 年から商業運用されています。2025年にはRanfjorden-Velfjorden間で320kmの完全自律航行を41時間かけて完了し、現場スタッフなしで遠隔監視のみで水路測量を実施しました。V3000と同様に小型測量USVであり、公共水域での実運用という点で直接比較可能な事例であるといえます。
・ Baird Maritime, 2025 年 9 月
・ Offshore Magazine
※2 その他シンガポールの比較事例:2019年から2020年にかけて、Wärtsilä社とPSA Marine社が共同開発した自律型タグボート「PSA Polaris」(全長27m)が、シンガポール海事港湾庁(MPA)の規制サンドボックス内で試験を実施しました。測量船ではなく港湾タグボートであり船体も大きいですが、公共水域における自律航行の規制枠組み整備という観点では参考となる先行事例であるといえます。
・ Wärtsilä 公式発表, 2020年3月
・ Smart Maritime Network, 2020 年 3 月
この試験はロッテルダム港の第二港湾地区(マースフラクテ2)内にあるプリンセス・マルグリート港で行われ、ロッテルダム港の有人船舶が伴走する形で実施されました。V3000と名付けられたこの船舶は、スヘフェニンゲン港に拠点を置くオランダの海事企業DemconUnmanned Systems によって開発された全長3メートルの自律型測量船です。V3000は完全自律で動作し、水深測量や海底マッピングなどの水路測量データを収集しました。
また、この試験は、2025年4月に施行されたオランダ内陸水路警察規則
(Binnenvaartpolitiereglement、BPR)の改正によって可能となりました。従来はすべての船舶に乗組員の配置が義務付けられていましたが、この改正により、継続的な監視、安全システムの認証、港湾当局のガイドライン遵守といった厳格な条件の下で、乗組員の配置義務を免除することが認められるようになりました。V3000はこの免除を受けた初の船舶となり、オランダにおける自律航行の重要な規制上の節目となりました。
Demcon Unmanned Systems とロッテルダム港湾当局が協力してこの試験を実施しました。Demcon が船舶と技術的専門知識を提供し、港湾当局が運航承認、安全監督、港湾交通との統合を担当しました。
ロッテルダム港湾当局は今後12年間で保有船舶を順次更新する計画であり、今回の試験はその一環として実施されました。この試験により、実際の港湾エリアにおいて自律型船舶が水路測量を実施することの技術的実現可能性と法的実行可能性が実証されました。V3000 は、その小型で機動性の高い特性により、マースフラクテ2のような広大なエリアでの効率的な測量や、従来の有人測量船がアクセス困難な場所での測深・検査を可能にします。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石)