欧州海上安全レポート
海運業界での脱炭素化を支援する技術や燃料の開発が着実に進んでいます。特に注目すべきは、持続可能な海運燃料としてのアンモニアやメタノールの活用及び風力推進技術の進展です。
持続可能な海運燃料の現状と課題
「ネットゼロ連合」(Getting to Zero Coalition)には、海運、エネルギー、インフラ、金融分野から200を超える組織(そのうち180以上が民間企業)が参加しており、2030年までにゼロエミッション燃料を使用した商業船舶の運航を実現することを目指しています。同連合は2025年8月、アンモニアとメタノールを持続可能な海運燃料とみなす現状と課題をまとめた報告書を発表しました。
報告書によれば、メタノール対応船舶は既におよそ60隻が運航中で、300隻以上が追加発注されているとされています。アンモニアについては、まだ成熟度はメタノールほどではありませんが、一部のパイロット船が運用され、ロッテルダムなどの主要港でアンモニア燃料補給(バンカリング)の試験が進められています。しかし、これら燃料の商業規模での普及には課題が残っています。環境配慮型原料の供給不足、製造コストの高さ、安全性に関する規制・設備の未整備などが、その主な障壁です。
また、アンモニアは毒性と腐食性を有するうえ、常温常圧では気体であるため、輸送・貯蔵には低温または高圧による液化処理が必要です。このため、専用設計の船舶や装備、さらに取り扱いに習熟した乗組員の確保が不可欠です。しかし、こうした専用船舶の建造には初期投資が大きく、導入の不確実性から回収リスクを懸念する声があります。安全性を重視して早期導入を進める意見と、既存設備の改造を優先すべきとの慎重な立場が対立しています。
風力推進技術の発展と政策の後押し
「Focus」誌(2025年8月14日号)によれば、International WindShip AssociationのGavin Allwright事務総長は、今後5年以内に世界の商船の約15%が風力補助システムを装備する可能性があり、2050年までにその割合が50%に達するとの見通しを示しています。また、EUの排出権取引制度(EU’s Emission Trading System, ETS)およびFuelEU海運規則が、風力補助技術など低炭素技術の導入を促進する政策・法制度として機能しています。
また、IMOでは、2023年に国際海運からのGHG排出削減戦略(2023 IMO GHG Strategy)を採択しており、2050年頃までに実質ゼロ(net-zero)を目指すことが明記されています。MEPC 83(2025年4月)では、中期対策として柔軟性措置を含む燃料のGHG強度(Fuel Intensity)の規制や報奨制度を含むネットゼロフレームワークが承認されており、2025年10月の臨時MEPC会合で正式採択される見込みです。採択後、2027年春までに施行(2028年の使用燃料から規制適用となる見込み)され、5,000総トン以上の外航船舶に義務付けられる予定です。
以上のように、海運業界の脱炭素化は、技術革新と国際協調の両輪によって着実に進展していると言えます。
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