欧州海上安全レポート
本調査レポートでは、MASS分野で先進的な取り組みを行っているノルウェーとベルギーを取り上げ、両国の法制度の枠組みと実施中のプロジェクトの現状を紹介します。
目次
(1)法整備の状況
ア 基本枠組み、 イ 適用対象と評価基準、 ウ 運用要件と安全性評価
エ 将来の制度整備、 オ 国際協力
(2)自律運航船プロジェクトの動向
ア YARAビルケランド、 イ ASKO自律型RoRo船プロジェクト
ウ 北海オフショア支援船の自律化、 エ 国内フェリーの段階的自律化
(1)法整備の状況
ア 規制の基本枠組み、 イ 許可制度の詳細
ウ 運用規定と監督体制、 エ 国際協力、 オ EUレベルの枠組み
(2)自律運航船プロジェクトの動向
ア Seafar遠隔運航センター、 イ Deseo内陸輸送プロジェクト
ウ 港湾支援用自律船、 オ 次世代コンセプト船開発
カ 国際企業の参入とEUプロジェクト
本文
1.はじめに
海上自律航行船(MASS)の導入は、海運業界に根本的な変革をもたらす可能性を秘めています。従来の有人船舶から無人・遠隔運航(遠隔操作)船舶への移行は単なる技術革新にとどまらず、(1)船上での24時間体制運航から陸上センターによる複数船舶の同時監視・制御への転換、(2)求められる技能の重心が船上航海技術からIT・データ分析能力へと移行する点、(3)国際海事法の再構築の必要性など、業界の仕組み全体を改変し得る動きです。この技術により運航効率は大幅に向上し、環境面でも大きな効果が期待されます。さらに、海難事故の大半が人為的要因によることを踏まえると、AIとセンサーによる24時間の連続監視によって安全性の飛躍的な向上も見込まれます。2022年の欧州海上保安機関(EMSA)報告書[1]によれば、報告された事故の約78%が人為的要因によるものでした。一方で、この新たな船舶形態はセキュリティ、インフラ、技能面で新たな課題も提起しています。
本調査レポートでは、MASS分野で先進的な取り組みを行っているノルウェーとベルギーを取り上げ、両国の法制度の枠組みと実施中のプロジェクトの現状を紹介します。
2.ノルウェーの動向
(1) 法整備の状況
ア 基本枠組み
ノルウェーでは、自律運航船に関する規制枠組みの整備が段階的に進められています。新法を制定せず、既存の海上安全に関する規則(国際海上衝突予防規則COLREGsや海上人命安全条約SOLASに基づく国内法など)および船種別の規制(客船・貨物船・漁船等)を自律運航船および遠隔運航船に適用するアプローチを採用しています。すなわち、従来の有人船舶向け法規制をベースに、同等の安全基準を満たすことを保証するため、追加の報告要件とガイダンス文書で補完する柔軟な方式です。具体的には、回覧RSV 12-2020[2]によって補完されています。回覧RSV 12-2020は立法文書ではなく、自律船や遠隔運航船の運用に必要な申請書類、安全評価、報告義務などの要件と基本原則を示すガイダンスです。
なお、後述のベルギーは無人航行に関する法令を2021年に新たに制定し、専用の許可制度を設けるなど、より体系的な法的枠組みを構築しています。
イ 適用対象と評価基準
ノルウェーでは、完全および部分的に遠隔運航される船舶のいずれも、従来の船舶と同水準の安全性を維持することが義務付けられています。そのため、船舶の種類(客船・貨物船・漁船など)に適用される法律に加え、自律性と遠隔運航の程度に基づく評価を行います。IMOは4段階の自律レベルを定義していますが、ノルウェーはこれをより詳細に5つのレベルに分類 ※1 しており、2020年の回覧はノルウェー国内航海に従事するレベル3〜5の船舶に適用されます。
※1 ノルウェーにおける自律レベルの定義
- レベル1(船上意思決定支援):乗組員が船上で操船・制御を行い、自動化システムが意思決定を支援する。
- レベル2(船上・陸上意思決定支援):乗組員が船上で操船・制御を行い、自動化システムと陸上からの支援の双方を受ける。
- レベル3(定期的無人化):天候が良く交通量の少ない夜間、または乗組員が乗船した状態で数日間の無人化が可能、あるいは護衛艦に搭載されて接岸作業やより複雑な作業を行う。システムが対応できない状況が発生した場合には、オペレーターに警報が発せられるか、乗組員を起こす。
- レベル4(遠隔操作可能):陸上の管制センターから直接または間接的に遠隔操作できるオプションを備える。航海中は乗組員は乗船せず、常時有人の管制室で船舶を監視し、システムが対応できない状況が発生した場合にオペレーターへ警報するための必要な警報システムを有する。
- レベル5(完全自律型):完全に無人で陸上からの監視を要しない。複雑さと安全性の観点から、特に国際航海に従事する船舶にはほとんど、または全く関係しないが、船舶は常に責任者の制御下にあり、沿岸国が船舶を呼び出せることが求められる。
ウ 運用要件と安全性評価
自律船や遠隔運航船が従来船舶と同じ安全レベルを確保できるよう、ノルウェー海事局はIMOの「代替設計・配置の承認に関するガイドライン」(MSC.1/Circ.1455[3])を活用しています。これにより、従来規則を直接適用できない場合でも、同等の安全性が証明されれば異なる技術や運用方法を承認できます ※2。
※2 従来規則が船橋での有人目視監視を義務付ける場面でも、自律船ではカメラ・レーダー・LIDARと陸上センターからの遠隔監視の組合せで同等以上の監視能力を実証できれば承認対象となる。火災時の乗組員による消火活動の代替として、自動消火システムと遠隔制御により同等の消火能力を示せば、この代替方法も承認され得る。
エ 将来の制度整備
現在は既存法とガイダンスによる柔軟対応を行っていますが、自律航行や新たな推進方式を含む新技術の急速な進歩を踏まえ、ノルウェーは2025年6月に海事規制の見直しを行う公的立法委員会[4]を設立しました。同委員会は、現行法が自律航行や新技術に十分対応できているかを評価し、海上安全と乗船者の安全を最優先に確保しつつ、IMOによる国際規制の動向も考慮して検討を進めます。検討結果はノルウェー公式報告書(NOU)として、2027年9月1日までに貿易・産業・漁業省へ提出される予定です。
オ 国際協力
ノルウェーは2024年、英国・ベルギー・デンマーク・オランダと覚書を締結[5]し、特に北海域の国有水域外における自律運航船の国際運航に関する協力促進に参加しました。国際レベルでは、他の北海諸国と安全な越境運航に関して積極的に協力しており、統一された規制基準の提示が期待される国際海事機関(IMO)による世界的なMASSコード策定作業で主導的な役割を果たしています。包括的な国際基準および専用の国内法の制定を待ちつつ、国内枠組みは柔軟かつ適応性を維持したまま、IMOレベルでの策定に積極的に関与しています。
(2) 自律運航船プロジェクトの動向(別表1参照)
ア YARAビルケランド — 世界初の完全電気コンテナ船
ノルウェーでは世界に先駆けて自律運航船の実証や商業化が進められています。代表例が、Yara Internationalがオーナーを務める船名「YARAビルケランド」です。Kongsbergが技術統合 ※3、VARDが建造、DNVがクラス認証を担い、ノルウェー海事局が規制を監督する、世界初の完全電気コンテナ船で、120TEU・3,200DWTの規模を有します。
※3技術統合とは、航行・センサー・推進・通信・安全・電力管理など各システムを一体として機能させること。Kongsbergは異なる機器を接続し、情報を集約・判断する中央制御システムと自律航行アルゴリズムを開発する役割を担う。
航行速度は6〜13ノットで、LIDAR・レーダー・カメラを搭載。2017年にプロジェクトが開始され、2022年以降は商業化に移行し、グレンランド港とブレヴィク港間(約8nm)を航行しています。遠隔運航は、Kongsberg MaritimeとWilhelmsenの合弁会社Massterlyが運営する遠隔運航センター(ROC:Remote Operations Center、ホルテン所在)が担い、同センターは複数船舶を監視・制御しています。現在は安全確保のため船上に乗組員3名を配置していますが、段階的に削減し、将来的に完全自律化を目指しています。
イ ASKO自律型RoRo船プロジェクト
自律型RoRo船の実証も進んでおり、ノルウェーの食料品大手ASKO ※4が導入を進める船名「Marit」と「Therese」の2隻を運航しています。
※4 ASKOはノルウェー最大級の食品流通企業で、物流コスト削減と環境対応の観点から、トラック輸送の一部を自律運航船による海上輸送へ転換する戦略を進める。
Kongsbergが技術統合、MassterlyがROC運用を担当し、Naval Dynamicsが設計、コーチン造船所が建造しました。全長約70mでトレーラー16台を収容可能。レーダー・カメラ・GNSS・4G/5Gを搭載し、オスロフィヨルド内のモス〜ホルテン間(約6nm)を航行しています。現在は3名の乗組員で試験運航中ですが、自動充電システムの承認後に乗組員を2名へ減らす予定です。このプロジェクトもYARAビルケランドと同様、MassterlyのROCを活用しています。
ウ 北海オフショア支援船の自律化
Kongsberg Maritime(および合弁会社Massterly)が進める船名「REACH Remote 1 & 2」は、北海におけるROV支援船 ※5として位置付けられています。
※5 ROV(遠隔操作型無人潜水機)支援船は、ROVの運搬・投入・回収、電力供給、位置保持などを行う母船。北海は海底油・ガス田や洋上風力設備が集中し、パイプライン検査や海底設備メンテナンス等の需要が高い。
全長23.9m、全幅8m、最高速度11ノットで、30日間の無補給運用が可能です。ROCはホルテンに置かれ、商業運転はすでに開始済み。3号機・4号機も発注済みで、2027年第2四半期に納入予定です。
また、DeepOcean・Solstad Offshore・Østensjø ※6が共同設立した会社による「USVチャレンジャー」も注目されます。
※6 DeepOceanは海底サービス企業、Solstad Offshoreは大手オフショア支援船会社、Østensjøは北海での活動に強みを持つ海運会社。
完全遠隔操作の無人水上艦で、ハイブリッドディーゼル電気推進とバッテリーパッケージを搭載し、最大30日間の無補給航行が可能です。主に海底検査・保守・修理・調査に従事し、ROCはハウゲスンに設置、Remota ASが運営します。ROVパイロットとUSVオペレーターが共同で配置され、試験運用を継続中で、すでにVår Energiを含む北海大陸棚の事業者との実証プロジェクトが進められています。
エ 国内フェリーの段階的自律化
個別案件に加えて、国内フェリーでも自律化が進展しています。Fjord1 ASは、ラルヴィク〜オッペダル間で運航される国内RO-PAXフェリーにおいて、バッテリー駆動の自律型両端フェリー4隻を建造中です。
[※Fjord1はノルウェーの大手フェリー運航会社で、フィヨルド地域の重要な交通インフラを担う。同一航路を高頻度で往復する短距離フェリーは自律化に適しており、人件費削減と環境対応の観点から段階的自律化を進めている。両端フェリーとは、両方向から車両が乗下船可能な構造のフェリー。]
2026年9月就航予定で、その後2027年に自動横断・自動ドッキング機能を実装し2028年に自律航行を導入する見通しです。
さらに、Bastø Fosen ※7が運航するモス〜ホルテン航路でも、Kongsbergの技術を用いた自律型旅客・車両フェリーが試験されています。
※7 Bastø Fosenはオスロフィヨルド内の主要航路を運営し、モス〜ホルテン間は欧州道路E18の一部として機能する重要な輸送路。単純な横断で高頻度運航され、ホルテンのROCから監視しやすいため、自律化実証に適する。
本船は全長139.2m、幅21m、車両100台規模を収容し、LIDAR・カメラ・レーダー・AISを装備。リモート・アウェアネスのバックアップとしてROCを利用し、将来的な完全自律運航に向けた試験を継続しています。
3.ベルギーの動向
(1) 法整備の状況
ア 規制の基本枠組み
ベルギーにおけるMASSの開発を規制する主要な拘束力を持つ法令は、ベルギー海域における無人航行に関する2021年6月16日の法令[6]です。これはMASS分野の急速な技術開発と国際的な規制の欠如を背景に、連邦運輸省の提案を受けて国王により発布されました(オランダ語名称:Koninklijk besluit betreffende onbemande vaart)。この法令は、ベルギーの領海および排他的経済水域(EEZ)で試験・運用される無人船舶の許可制度を定めています。
イ 許可制度の詳細
許可制度は遠隔運航船・自律運航船・実証試験用船舶を対象とし、申請にあたっては運用構想・設計・運用・ミッションプランニングの4段階で構成される技術ファイルの提出が必要です。申請者は資格ある専門家によるリスク評価を実施し、責任体制と連絡窓口を明確化しなければなりません。特筆すべきは、遠隔運航センター(ROC)が法的に船舶の一部とみなされ、検査対象となる点です。
ウ 運用規定と監督体制
試験許可は最長3か月間有効で、期間中は航行距離・無人期間・介入状況などの報告書提出が義務付けられます。海運総局(DG Shipping)はこれらの報告に基づき、許可期間の延長・変更、場合によっては終了を決定します。安全面ではサイバーセキュリティと通信接続性が必須評価項目であり、国際海上衝突予防規則COLREGs ※8も引き続き適用されます。
※8 COLREGsは見張り義務、右側通航、避航船と保持船の優先関係、灯火・音響信号などを規定。自律船では、見張りのセンサー代替、AIによる速力判断、船長不在時の責任所在等が課題となるため、規則遵守または同等の安全性の証明が求められる。
申請者はこれらの規則を遵守するか、同等の安全性を証明する必要があります。
賠償責任と保険は既存の海運法を適用し、地域当局や港湾が追加条件を設けることも可能です。船舶交通サービス(VTS)との連携は個別に調整されます。連邦運輸省は詳細なガイダンス[7]を提供しており、全体としてEUおよびIMOのガイダンスに沿った評価体制となっています。
エ 国際協力
国内法に加え、ベルギーは国際協力にも積極的です。2023年11月、英国・デンマーク・オランダとの間でMASSの国際運用に関する覚書(MOU)[8]に署名しました。これは北海における国際運用を調整するための戦略的協定で、法的拘束力はないものの、政策レベルの協力を規定しています。覚書の目的は、異なる国家体制下での安全な試験・ミッション・商業運用の促進であり、ベストプラクティスの共有、認証・運用手順・責任・遠隔運用・管轄権等の国内要件の可能な限りの調和、国境を越える運用規則の透明性確保を掲げています。国際試験の計画時には他国と早期に連携し、認証・許可・運用要件を事前に明確化することを推奨し、規制動向・運用報告・課題の検討のため2年ごとの定期会合を行うこととされています。共同作業の主要議題には、遠隔運航センター、責任、管轄権、そして国際的MASS運用の摩擦を軽減する一貫した政策枠組みの構築が含まれ、各国にMASSの中央窓口を確保することも目的としています。この覚書は国内法を補完し、複数国が関与する運用における相互理解を促進します。
オ EUレベルの枠組み
ベルギーは国内法と国際協力に加え、EUレベルの枠組みも活用しています。EUのMASS運用ガイドライン(欧州委員会策定)[9]を適用しており、これは拘束力を持ちません。各国の試験枠組みを調和し、EU海域において安全かつ環境に配慮したMASS実証を行うための体系的手法を提供するものです。ガイドラインは設計・運用・ミッションシナリオを含む早期リスク評価を重視し、通常の海上交通との相互作用を考慮してCOLREGsやVTSとの統合を前提とした試験設計を求めます。さらに、インシデント報告、サイバーセキュリティ管理、人的監視レベルに関する手順を推奨します。責任と保険は既存のEUおよび各国制度に準拠しますが、事業者には試験前に契約上の責任と保険適用範囲の明確化を促します。港湾当局・現地規制当局との連携を重視し、試験前の協議の重要性を強調。船舶および遠隔運航センターの検査は、有人船舶と同等の安全性を確保するため推奨されます。法律ではありませんが、ベルギーでは事実上の標準となっており、法令により技術ファイル評価での使用が明示的に義務付けられています。ベルギーはEUの勧告に国内手続きを整合させることで、加盟国間でデータ・試験報告・安全性ベンチマークの比較可能性を確保し、将来の調和化を促進します。運用面では、これらのガイドラインがベルギー当局による試験許可申請の実務的な評価基準となります。
(2) 自律運航船プロジェクトの動向
ア Seafar遠隔運航センター
ベルギーでも自律・遠隔運航の実証が積極的に進められています。中心となるのが、アントワープ港に拠点を置く「Seafarショア・コントロール・センター(SCC)」です。遠隔運航技術を専門とするSeafar NVが運営し、欧州宇宙機関(ESA)の技術支援を受けつつ、AIを活用して資格を持つ船長が運河・河川の貨物船やコンテナ船を遠隔操縦する中央制御ハブとして機能しています。2022年初頭から正式稼働し、全長24m未満の小型船舶から最大135mのバージまで、幅広い内陸水路船舶を遠隔制御しています。
イ Deseo内陸輸送プロジェクト
これに続く事例として、BlueClusterが調整し、Seafar NVが陸上制御技術を提供する「Deseo内陸支援プロジェクト」があります。Citymeshが通信を担当し、GNSSやAISによる航行支援を組み合わせています。2021年から継続して実施され、2025年2月からはゼーブルージュ港とアントワープ港を結ぶ固定ルートでコンテナ輸送を開始しました。今後はさらなる自律化が検討されています。
ウ 港湾支援用自律船
港湾の測量業務でも自律船が導入されています。アントワープ・ブルージュ港が運営する「EchoDrone」は水路測量用の小型自律USVで、dotOcean NVがクラウドロボティクス技術を提供。ソナー・カメラ・レーダーを搭載し、2018年以降は試験を重ね、現在は実運用に供されています。
また、フランドル水路局が導入した「NEMO」は、2025年5月に就役した3m級の電動USVで、障害物回避や多様なソナーを搭載し、遠隔あるいは自律的に調査任務を遂行しています。
オ 次世代コンセプト船開発
Zulu Associates ※10 とAnglo Belgian Shippingが共同で進める「ZULU MASS」は、200TEU級の近海コンテナ船を対象としたゼロエミッション自律船のコンセプトです。
※10 Zulu Associatesは海事コンサルティング企業、Anglo Belgian Shippingは英国・ベルギー間の海運を手掛ける海運会社。
風力補助推進やエネルギーコンテナによる電力供給を組み合わせ、イギリス海峡や北海での運用を目指しています。2026年までの就航が想定され、現在は設計段階にあります。
カ 国際企業の参入とEUプロジェクト
国際企業の進出も見られます。ブラジルのUSV開発企業TideWiseは2024年11月、アントワープに拠点設置を発表し、検査や洋上風力支援向けUSVの展開を計画しています。ROC機能を備えたアントワープ拠点は、2025年からの市場参入を予定しています。
加えて、EUの研究開発支援プログラム「ホライゾン・ヨーロッパ」 ※11 の一環である「SEAMLESS」も進行中です。
※11 ホライゾン・ヨーロッパはEUの科学技術イノベーション促進のための資金提供プログラムで、2021〜2027年の7年間で約950億ユーロの予算規模。
これは個別の船舶開発ではなく、自律運航船の実用化に必要な基盤整備を目的とする大規模プロジェクトで、EU各国で異なる規制の標準化、実船舶のデジタルツインによる安全性検証、遠隔運航センター(ROC)の標準的運用手順の確立などを進めています。アントワープ・ブルージュ港を含む26パートナーが参加し、2025年5月には自律型貨物シャトルのデモが実施され、欧州全体での実装に向けた検証が進みました。
4.まとめ
本調査報告書は、欧州でこの分野をリードするノルウェーとベルギーのMASS分野における制度枠組みと関連プロジェクトを整理しました。ベルギーとEUレベルには相互関係があり、ベルギーはEUガイドラインに積極的に貢献し、その適用にも尽力しています。
両国は、RO-RO船、RO-PAX船、内陸船、オフショア船など幅広い船種でプロジェクトを実施しており、MASSが海上輸送のさまざまな分野で潜在力を持つことを示しています。多くのプロジェクトが進行中または試験段階にあるため、現時点で最終的な成果を評価することは困難です。
制度環境については、両国とも包括的でありながら比較的簡素な枠組みが整備されていることが明らかになりました。ハードローより拘束力のないガイドラインが好まれる傾向があり、海事当局はMASSが依然として比較的新しい分野であることを認識して、規則を柔軟に保つことを志向しています。その結果、MASSに関する新たな具体的規則を別立てで制定するのではなく、MASS関連の要素は既存の海事法制に統合されています。
このように、ノルウェーとベルギーでは、自律運航船や遠隔運航センターを核とした多数のプロジェクトが進行しており、フェリー、内航船、ROV支援船、測量USV、近海コンテナ船に至るまで、多様な船種を対象に実証と商業化が同時並行で展開されています。両国の取り組みは、自律運航の技術成熟と制度整備に向けた重要な一歩となっています。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
企業ウェブサイト一覧
- Yara International ASA(ヤラ・インターナショナル)
作物栄養(肥料)・アンモニア・産業ソリューションの大手化学メーカー。公式サイト:https://www.yara.com
- Kongsberg Maritime(コングスベルグ・マリタイム)
海事分野向けにブリッジ/自動化/電力/遠隔運航などの統合ソリューションを提供KONGSBERGグループ海事部門。公式サイト:https://www.kongsberg.com/maritime/
- KONGSBERG(コングスベルグ・グルッペン)
海事・防衛等で高性能システムを提供するノルウェーの国際テクノロジー企業グループ。公式サイト:https://www.kongsberg.com/
- VARD(ヴァード)
特殊船の設計・建造・改造を行う造船グループ。公式サイト:https://www.vard.com/
- DNV(ディー・エヌ・ブイ)
独立のアシュアランス/リスクマネジメント機関(船級協会)。公式サイト:https://www.dnv.com/
- Massterly AS(マスタリー)
自律・遠隔運航船の運航・管理に特化した、Kongsberg MaritimeとWilhelmsenのJV。公式サイト:https://www.massterly.com/
- Wilhelmsen(ウィルヘルムセン)
物流・船舶サービス等を提供するグローバル海運サービス企業。公式サイト:https://www.wilhelmsen.com/
- ASKO(アスコ)
ノルウェー最大級の食品卸(NorgesGruppenの一員)。公式サイト:https://asko.no/
- Naval Dynamics AS(ネイバル・ダイナミクス)
海洋エンジニアリング/船舶設計会社。公式サイト:https://www.navaldynamics.com/
- Cochin Shipyard Limited(コーチン造船所)
インドの大手造船・修繕会社。公式サイト:https://cochinshipyard.in/
- Fjord1 AS(フィヨルドワン)
ノルウェーのフェリー運航大手。公式サイト:https://www.fjord1.no/
- Bastø Fosen AS(バスト・フォーセン)
オスロフィヨルドのモス~ホルテン航路を運営するフェリー会社(Torghatten ASA傘下)。公式サイト:http://www.basto-fosen.no/
- DeepOcean(ディープオーシャン)
再エネ・石油ガス等向けに海底調査・エンジニアリング・設置・保守を提供する独立系オーシャンサービス企業。公式サイト:https://www.deepoceangroup.com/
- Solstad Offshore ASA(ソルスタッド・オフショア)
オフショア支援船を運航する海運会社。公式サイト:https://www.solstad.com/
- Østensjø Rederi AS(ウステンショー・レデリ)
オフショア・タグ&トーイング等のサービスを提供する船社。公式サイト:https://ostensjo.no/
- Remota AS(レモタ)
ハウゲスン拠点のROC(遠隔運航センター)による海事の遠隔運用・半自律運航サービスを提供。公式サイト:https://www.remota.no/
- Vår Energi ASA(ヴォール・エネルギー)
ノルウェーの独立系上流(E&P)企業。公式サイト:https://varenergi.no/
- Seafar NV(シーファー)
無人・省人化船の遠隔運航を提供するベルギー企業。公式サイト:https://seafar.eu/
- Citymesh NV(シティメッシュ)
企業向けにモバイル通信/プライベートネットワークなどの接続ソリューションを提供するベルギーのテック企業。公式サイト:https://www.citymesh.com/
- dotOcean NV(ドットオーシャン)
自律航行・クラウドロボティクス等の海事自動化ソリューション企業。公式サイト:https://www.dotocean.eu/
- ZULU Associates(ズールー・アソシエイツ)
自律・ゼロエミッションの短距離/近海輸送コンセプトを開発するベルギー企業。公式サイト:https://www.zulu-associates.com/
- Anglo Belgian Shipping Company Ltd(アングロ・ベルジアン・シッピング)
ZULU Associatesの関連会社。公式サイトは未公開の模様:https://www.zulu-associates.com/
- TideWise(タイドワイズ)
ブラジルのUSV(無人水上艇)開発・運用企業。公式サイト:https://www.tidewise.io/
(以上)
[1] https://www.emsa.europa.eu/newsroom/latest-news/item/4830-safety-analysis-of-emcip-data-analysis-of-navigation-accidents.html
[2] https://www.sdir.no/en/regelverk/circulars/guidance-in-connection-with-the-construction-or-installation-of-automated-functionality-aimed-at-performing-unmanned-or-partially-unmanned-operations/
[3] https://www.mardep.gov.hk/filemanager/en/share/msnote/pdf/msin1339anx1.pdf
[4] https://www.regjeringen.no/no/aktuelt/nytt-utvalg-skal-revidere-det-maritime-regelverket/id3111703/
[5] https://kommunikasjon.ntb.no/pressemelding/18092689/ny-avtale-sikrer-internasjonalt-samarbeid-om-drift-av-autonome-skip?publisherId=14943704&lang=no
[6] https://www.ejustice.just.fgov.be/eli/besluit/2021/06/16/2021042023/justel
[7] https://mobilit.belgium.be/en/shipping/semi-autonomous-ships
[8] https://mobilit.belgium.be/sites/default/files/documents/publications/2024/MoU on Maritime Autonomy_20231128.pdf
[9] https://transport.ec.europa.eu/system/files/2020-11/guidelines_for_safe_mass.pdf