欧州海上安全レポート

英国運輸省:MASSに関する意見公募結果を公表 第*号R6年1月*日
遠隔操縦センターの法的地位を中心に

 英国運輸省は、23年9月、無人運航と遠隔操作の規制の見直しに関するコンサルテーション(意見公募)の実施結果「Future of Transport Regulatory Review: Maritime Autonomy and Remote Operations」を発表した[i]。このコンサルテーションは、2021年(令和3年)9月28日から11月22日までの間、英国政府が示した3回目の提案[ii]について実施され、その結果、産業界および一般市民合計50の団体・個人から回答があり、それら10のテーマに沿って英国政府の見解も示された。

 本稿では、その中から、遠隔操縦センターの法的地位、海事セキュリティ、そして保険と責任について紹介する。

<ポイント>

〇このコンサルテーションは、無人運航船という新技術に対する法規制の在り方について、産業界および一般市民から意見を求めたもの。

〇遠隔操縦センターについて、旗国以外に設置することを容認したいが、それらに関する法的課題は更なる検討が必要である(特に、旗国管轄、船員法、労働安全衛生基準など)

〇海事セキュリティについて、サイバーおよび物理的なセキュリティリスクの増大について関心が高い

〇海上保険について、必要なデータが不足している中どのように保険が適応していくのか、また、事故があった場合の責任の所在について検討が必要である

 

1.定義と責任についてDefinitions and Responsibilities

 特に、遠隔操縦センター(ROC)及び遠隔操縦者について[iii]注目する。

◆ROCは、旗国の領域内に設置する必要はないものの、旗国が無人運航船、ROC及び遠隔操作者に対する完全な管轄権を維持する必要があるためには、管轄権の問題あることを多くの回答者が指摘した。

◆ROCは、複数の場所から操作できるようにするべきであり、制御操作はあるRCOからの別のROCへ移行できるようにするべきであり、一つのROCは複数の無人運航船を同時に操作できるようにすることが望ましいと指摘した。

◆ROCは、有人で運用されるべきであるが、遠隔操作者を船員とみなすべきでない。遠隔操縦者には、訓練と認定が必要である。政府は、遠隔操作者は船員とはみなされず、陸上での労働安全衛生基準が適用され、当直時間や労働条件などの規則を制定する権限は、一次法(primary legislation)により提供されることが望ましく、また、ROCおよび遠隔操縦者に適用される現地の安全衛生法が優先されるとの見解である。

 

2.海事セキュリティについてMaritime Security[iv]

 回答者からは、サイバーおよび物理的なセキュリティリスクの増大に関する懸念が示され、また、サイバー攻撃に対する法整備の提案もあった。それは、サイバー攻撃から船舶と制御ソフトウェアを保護するための対策、攻撃を発見する操縦者の能力、バックアップに切り替えるための操縦者の能力など、不測事態への対策に焦点を当てるべきとのことであった。

 また、別の視点としては、無人運航船の大きさや速度に比例したセキュリティ対策が必要であるとの見解である。ある回答者は、小型、軽量、低速の海上自律型水上船はサイバーセキュリティの脆弱性が低いことを示唆した。

 その他、公海上における無人船の保護は現在の国際規則で担保できているのか、水先法の改正の要否などにも言及があった。

 政府は、それらの海事セキュリティ対策の重要性を認識し、一次法である1990年航空・海事保安法(the Aviation and Maritime Security Act 1990 )の改正も視野に、さらにその後の二次法の整備も検討していくとの見解であった。

 

3. 保険と賠償責任Insurance and Liability[v]

 回答者の多くは、保険会社が入手できる統計データや過去の証拠が不足しているため、保険会社のリスク評価および適切な保険料設定が困難であるとのコメントであった。その結果、無人運航船がその実力よりもむしろ不確実性によって採用が抑制される懸念があるとの意見もあった。他方、現在の保険請求は人に関する請求が多いことから、保険金額を減らせる機会とみているとの意見もあった。

 また、もう一つのテーマは、事故を起こしたときの責任問題である。回答者からは、事故の責任が船主からシステム開発者にシフトさせるかどうか不明瞭である、利用可能なデータの増加によってこの課題が相殺されるといった意見があった。

 

 全体のまとめとして、寄せられた回答は、英国政府による英国海域で無人運航船を許容するための法改正計画に反映される。政府は議会の時間が許す限り、これらの計画を議題に挙げるとしている。

 

[i]https://www.gov.uk/government/consultations/future-of-transport-regulatory-review-maritime-autonomy-and-remote-operations

[ii] https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6152c61d8fa8f5610814546e/future-of-transport-regulatory-review-maritime-autonomy-and-remote-operations-print-version.pdf

[iii] 同上P17 1.7 Remote Operation Centres and Remote Operators

[iv] 同上P27 5.Maritime Security

[v] 同上P30 6. Insurance and Liability

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