2018/4/16 LROニュース(5)
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2018.04.17 UP
2018/4/16 LROニュース(5)
- 【1】 EU MRV規則の導入により船主の燃料節約が促進
- 船舶の改修専門事業者によると、2015年7月にEUのMRV規則が発効して以来、船舶の改修、特にプロペラの改修作業が増加している。減速運航は船舶の燃費節約のための一般的な方法だが、プロペラは想定運航速度に合わせて最適化されているので、減速運航をする場合、プロペラの改修も必要となる。プロペラの改修は乾ドックに入渠しなくても、水中でも行うことができる。 原文 Mar. 12, 2018, Ship & Bunker(長谷部正道)
- 【2】 船舶の技術革新に対応する新たな船員訓練・技能が必要
- (論説)自律運航船の導入によって①船員の健康や安全に関するリスクの削減②ヒューマンエラーの削減③船員費の削減④身代金目的の海賊事件の根絶などのメリットが期待される。新たな技術開発は、正しく利用されれば、有人運航の安全性の向上にもつながるが、このためには船員の意識の転換と新たな訓練が必要となるため、船員を教育し、新たなシステムを運用し、緊急時に対応できるITの専門家の雇用が必要となる。経験を積んだ船長の直感的な判断はAIでは置き換えられないと思い込んでいる人間も多いが、先行している他の産業の経験から言えば、人間の判断能力より、情報に基づいたAIの判断の方が有効であると実証されている。自律運航船の実現によって、船員の仕事がなくなるのではなく、仕事の内容が変わると考えたほうが良い。自律運航船の導入段階では、陸上の運航管理センターのオペレーターにも、実船における船員としての経験が有効であるが、問題は既存の船員の多くが陸上の運航管理要員の支援を行う技能も経験もないということである。新たな雇用という意味では、従来型の船員労働より、陸上におけるオペレーターとしての業務の方が若者にとって就職先として魅力的であり、女性の進出にも道を開くことになろう。 原文 Mar. 12, 2018, Clyde & Co.(長谷部正道)
- 【3】 米FMCがコンテナの超過保管料・返却延滞料の慣行について調査を開始
- 米連邦海事委員会(FMC)は、コンテナの超過保管(demurrage)料金と返却延滞(detention)料金について、「公正な港湾慣行」連合の申し立てに基づき、荷主・ブローカー・船社・ターミナル管理会社等から本年1月に聴聞を行ったが、コミッショナーによる投票の結果、船社とターミナル管理会社が課する両料金について正式に事実関係の調査(Fact Finding 28)を開始することを3月5日決定し、Dyeコミッショナーに必要な調査権限を与えた。調査結果と勧告は本年12月2日までに提出される。調査は①両料金の請求手続き②遅延が荷主等の不可抗力で発生した場合の取り扱い③両料金の徴収に関する船社と荷主の紛争解決手続き等について行われる予定。Maffeiコミッショナーは、「まだまだ調査すべき点はあるが、聴聞の結果、両料金に関する既存の慣行は、時代遅れで、わかりにくく、整合性がなく、しばしば不公正であることが明らかとなった。」とコメントしている。 原文 Mar. 5, 2018, FMC(長谷部正道)
- 【4】 自律運航船に関する条約上・法的な課題
- (論説)自律運航船に関する主たる条約上・法的な検討課題は以下のとおり。①適正配乗要件。STCW条約等の配乗要件を定める条約は強行法規であり、全ての海事条約は船上に適正な資格を持った船員が乗り組むことを前提にしている。②担航能力。英国の判例では「担航能力」を「通常の注意深く慎重な船主が自己の船舶に要求するレベルの適合性」と柔軟に定義しており、技術革新により自律運航船も担航能力があるとみなされる可能性がある。③船長の責任。現在、船長責任として定められている責任について船長がいないからといってなくなるわけではないので、従来の船長責任を船主・陸上の運航管理者等に代わって負わせる改正が必要。④衝突予防法(COLREGS)。COLREGSは責任主体を「船員」ではなく「船舶」としている場合が多いので、無人船でも問題が少ないが、Rule 2(a)のように、「船員が通常行う慣行(the ordinary practice of seaman)」とあるように船員の乗船を前提とする規定もある。⑤船主の民事責任。多くの場合登録された船主や船舶自体が民事責任の主体となっているので自律運航船にも適用可能であるが、船主の責任制限に関し「船員の懈怠」が解除要件になっている場合、自律運航船のソフトウエア作成者がCOLREGS上の責任者となり得るかなど解決すべき課題は多い。 原文 Mar. 13, 2018, Seatrade Maritime News(長谷部正道)
- 【5】 北極海において油濁事故発生時の自然浄化作用に関する制約要因
- 大きな海上油濁汚染が発生した際に、過去の実績によれば漏出した油の15-25%しか機械的に回収されず、残りは海中のバクテリアが油を分解することによって自然浄化されるが、北極海には以下のような制約要因がある。①海水温が冷たいので、漏出した油が粘着質の塊となりやすいが、油を分解するバクテリアは油が細かく分解されないと生分解を行うことが困難となる。②漏出した油を細かくするのは波の働きであるが、海氷が存在する場合、波の力が弱くなり油を細かくしにくくなる。③北極海にはバクテリアの餌となる窒素とか燐が少なく、漏出油にもこうした栄養素は含まれないので、油を分解するバクテリアが繁殖しにくい。④北極海では、春や夏の時期に大量の植物プランクトンが発生し、また海氷から多くの鉱物が海中に放出されるが、こうした植物プランクトンや微小鉱物が漏出した油の表面に付着すると、油が海底に沈殿し、海中に浮いているときに比べて生分解が進みにくくなる。 原文 Mar. 13, 2018, Science Nordic(長谷部正道)